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「おい、待て。それって本当の話だろう?」
椎名さんは小鼻をひくひくさせながら
呆れたようにかぁーっとひどい溜め息を洩らした。
「だから困ったんじゃないですか」
当然僕の胸元にブローチをつけている九条さんにも、シャネルの5番の香りは届いているわけで——。
「さては君、僕の忠告を無視したな?復讐が済むまで最後の武器は取っておけと言ったのに」
「仕方ないよ。どちらも僕から誘ったんじゃないし。それに褒めて。例の刑事とはまだ寝てない。ちゃんと武器はとってあるんだ」
作ったばかりのカールを手櫛で崩す。
やり過ぎはいつだって禁物だから。
「それで?勝算はあるの?」
「勝算?」
「君のいう武器が、その刑事にとって本当に武器足りうるものなのか」
「僕の価値はそんなものでしかないと?」
鏡越し睨みつけるように顎を上げると
幾重にも重なる襟元のレースより白い喉元がのぞく。
「もちろん僕にとっては効力抜群さ」
椎名涼介はたまらなくなったように立ち上がり
後ろから僕の首筋にそっと手をかけた。
「本当に綺麗だね。今の君になら刺されても撃たれても——たとえ魂を抜かれても幸せだろう」
彼の指は細い顎先をなぞり——言いながら赤い唇へ。
「すべてを捨てられる?」
「アア……」
「あなたなら僕の為にすべて捨てられる?」
指先をほんの少し咥えてやると。
甘い痺れが全身を駆け巡ったように椎名涼介は身悶えた。
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