episode260 復讐の計画②

9/30
前へ
/30ページ
次へ
「おい、待て。それって本当の話だろう?」 椎名さんは小鼻をひくひくさせながら 呆れたようにかぁーっとひどい溜め息を洩らした。 「だから困ったんじゃないですか」 当然僕の胸元にブローチをつけている九条さんにも、シャネルの5番の香りは届いているわけで——。 「さては君、僕の忠告を無視したな?復讐が済むまで最後の武器は取っておけと言ったのに」 「仕方ないよ。どちらも僕から誘ったんじゃないし。それに褒めて。例の刑事とはまだ寝てない。ちゃんと武器はとってあるんだ」 作ったばかりのカールを手櫛で崩す。 やり過ぎはいつだって禁物だから。 「それで?勝算はあるの?」 「勝算?」 「君のいう武器が、その刑事にとって本当に武器足りうるものなのか」 「僕の価値はそんなものでしかないと?」 鏡越し睨みつけるように顎を上げると 幾重にも重なる襟元のレースより白い喉元がのぞく。 「もちろん僕にとっては効力抜群さ」 椎名涼介はたまらなくなったように立ち上がり 後ろから僕の首筋にそっと手をかけた。 「本当に綺麗だね。今の君になら刺されても撃たれても——たとえ魂を抜かれても幸せだろう」 彼の指は細い顎先をなぞり——言いながら赤い唇へ。 「すべてを捨てられる?」 「アア……」 「あなたなら僕の為にすべて捨てられる?」 指先をほんの少し咥えてやると。 甘い痺れが全身を駆け巡ったように椎名涼介は身悶えた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加