氷点下零度

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氷点下零度

高校生というのはまだまだガキで。 中学生の頃はあんなにも、高校生って大人びてて早く私も自由になりたいな、綺麗になりたいな、って思ってた。 でもいざなってみると、全然まだまだガキ。中学生と違うところは本当に自由が多いってところだけ。 そんな自由な高校生。中身はまだまだガキ。だってほら、雪が降れば雪だるま作ったり、友達に投げつけたりして遊んでる。 小学生と変わらない。 曇ったガラスに落書きしたり。 まだまだガキなのよ。 ガキなんだから大人しく、かっこつけないでしっかり防寒すればいいのに……。 季節は1月下旬。 今日の気温知ってる? 最高2°Cだって。 関東では今年1番の寒さだって天気予報のお姉さんが言ってた。 皆んなは、紺や黒やグレーの暖かそうなコートを着て、中にはニット帽被ってる人もいて。手袋して、マフラーして、女の子は可愛らしい耳あてをしてる子もいる。 防寒バッチリ。 なのにどうしてあなたは手袋もマフラーもせず、そんなに暖かくなさそうな見た目をしてるコートだけ着てるの? 鼻真っ赤だよ? って毎日登校中に思ってる。 クラスも違うし、話したこともない人。でも多分先輩。 私と同じ1年生ではない。 でもこの時期にまだ学校に来るってことは受験真っ只中で自由登校になってる3年生でもないと思う。 だから多分2年生。 心の中でこんなこと思うのは失礼だけど、ほんと、かっこつけなら諦めたほうがいいよって言ってやりたい。 鼻真っ赤なのバレバレだし。周りがすごい防寒してる中で1人だけむしろ浮いてるし。 言ってやりたい。けどいきなり話しかける勇気がない。 ーーそんなある日。 「梨花、これあげるよ」 友達の実花が突然渡してきた。 「カイロじゃん。いいの?」 「うん、顧問からもらったんだけど、あたし貼るタイプしか信じない人だからさ〜」 実花はサッカー部のマネージャー。試合の時はさぞ寒いのであろう、顧問が大量にホッカイロを買ってくれたそうだ。 「マジ?念のため持っておけば??」 「いらなーい。なに、梨花も貼る派?」 「私はカイロ持たない派、というか、充電式のやつ持ってるし」 お母さんが買ってくれた。でも充電するのがめんどくさくてあんまり使ってない。 「マジ?!最先端かよ〜……えーじゃあこれいらなかったら誰かにあげて?」 「えー……めんど」 「あたしは確実に使わないし!もしかしたら使う可能性がある梨花が持ってるほうがいいでしょっ」 んーまあ今日は特別寒いし、持っておこう…… ーーって貰ったホッカイロ×5。 結局使わずに下校時間まで来ちゃった。 いや。下校の時にね、使うかもだから。うんうん。 「じゃーねー」 「また明日〜」 雪でグラウンドが使えない為に部活がなくなった実花と途中まで一緒に帰って別れる。 あーあ久しぶりに友達と帰れたから逆に1人になったこの道が寂しいよ。 雪でこけないように、足場を確認しながら一歩一歩進む。 角を曲がると、なにやら人影が。 この道通る人いるんだ…… 家までのちょっとした近道。割と急な坂になっていて、大体の人は反対側の車も通れる緩やかな坂の方を登っていく。 階段もあるんだけど段数多くてそれも嫌って人も多い。 私は近いからこの道使っちゃうけど。こんな雪の日にまさか…… って。あれ?あの後ろ姿、見たことある。 フードの付いていない、鮮やかな紺色のコートに濃い青色のリュック。みてるだけで寒そうな。 コートのみの防寒の人。 階段を、真っ白な雪を被ってる手すりを掴みながらゆっくり上がっている。 うわ、冷たそう…… あんな、手袋もしてない手で…… 手袋してたってちょっと雪の冷たい感覚あるのに。 「ばかじゃないの。」 あっ…… 「……え?」 やべ。 心の中で言ったつもりが……。 しかも声に気づいてこっちみてるし……!! 「今、俺に言った?」 もちろん、周りには私しかいない。 「えっと〜……」 言い逃れができない。 「ばかって、俺に言った?」 まっすぐ見つめてくる。鼻真っ赤にして。 ……決めた。 「はい。あなたに言いました。」 言ってやった。 ずっと言いたかった。 「……え?」 「いつも思ってたんです。こんなに寒いのに手袋もマフラーもしないで歩いて。ばかだなって」 「……いつも?」 「はい。通学路途中から一緒なんですよ。だから、毎日後ろから見てました」 「俺のこと……?」 「そうです」 「ばかだなって……?」 だからそう言ってるじゃん。 「はい。ばかだなって。」 「えっと、はじめまして……だよね?」 「はい。」 「君……いくつかな?俺より年下だよね?」 「個人情報なので言えません」 チラッとはみたことあったけどこんなにじっくりみることはなかったあなたの顔。 思ってたよりも鼻真っ赤だし。 「はぁ……これだから今の子は。でも明らかに俺より年下。何、なんで俺ばかなの?」 「だから!こんなにクソ寒いのに手袋もマフラーもしないで鼻真っ赤なトナカイさんでカッコ悪いなって!!」 「そんなの人の勝手だろ?!」 「でも寒いんですよね?!手袋とマフラーしたらあったかいのに!なんでしないんですか?!」 「別に、したくないからしないだけだし!君は手袋もマフラーもして、あったかそうだね!?」 何だこの人。 「ええ、あったかいですよ!おかげであなたみたいにトナカイになってないですから?!」 いちいち言うことがムカつく。 「トナカイトナカイ言うな!俺は綾瀬拓人っていう名前がちゃんとあんの!」 あやせたくと……ねぇ。 「あやせたくとなかい。なるほど、そういう名前でしたか、失礼しました。略してトナカイさんって呼ばせてもらいますね」 ちょうどいいじゃない。その名前。 「だーかーら!!」 「ほら、怒ると余計に鼻真っ赤になりますよ??マフラー貸してあげましょうか??」 そう言ってマフラーを解こうとしたら 「いらねー!」 すぐに振り払って来やがった。 「なによ!冗談よ!あんたみたいなトナカイに貸してあげるわけないでしょ!」 フンっ。 あ。 ふいにポケットに手を入れるとなにやら袋が入っていることに気づく。 実花がくれたカイロ…… 「いらねーし!」 「……あの、それか、いつも見てて可愛そうすぎるので、これあげます。じゃ!」 受け取ってもらえなかったら邪魔だし嫌だから、私は急いで階段を駆け上がってその場から逃げた。 「は?!……カイロ??って!べつにいらねーし!!おい!!!ちょ、待てって!!」 後ろの方から声がする。 ちょっとポケットが軽くなった♪ あーさぶっ。 走ると風が冷たいわあ。 ……でも。あの人の名前あやせたくとって言うんだ。ま、トナカイさんって覚えればいいよね。明日は手袋とマフラーしてくるかな? なんて、ちょっと気になったりして……?? いやいやいや。 見てるとこっちまで寒くなってくるから!だからつけて欲しいだけだし! 「ただいまー!」 さ、こたつに入ってさっさとあったまろ。
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