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上がったのはわたしの温度
それから私は毎日夜遅くまで、母に教わりながらマフラーを編んだ。
思っていた以上に難しくて、何個も失敗作が出来た。
その度に諦めそうになったけど、2月に入った頃に、インフルエンザから復活したトナカイさんをみて再び熱を取り戻した。
ーーそして二週間くらい経った頃。
「出来た!!!」
「お、できたー?……うん!これなら人に渡せるわ!」
お母さんからも認められて、ようやく敏感肌トナカイさん用のチクチクしない、あったかいマフラーが完成した。
うん。うん。いい感じ!やっとできた。
私は予め用意しておいた袋に入れて、疲れ切った身体を休めるため布団に入った。
「ふーっ。」
早く明日にならないかなっ。
やっと、やっと、トナカイさんの首元にマフラーを巻き付けられる!
ふふふっ。
実花にメールしておこう♪
"やっと完成したよー!"
よしっ。
何時に起きようかなー。って考えていたら、いつのまにか眠ってしまっていたらしい。
「梨花ー?梨花?梨花!!!起きなさい!!遅刻するわよ!?梨花!!」
「え?!」
目の前には母が。
「そろそろ起きなさい!遅刻するわよ!!」
「嘘!今何時?!」
「8時よ!」
嘘!!!
7時半にアラーム……つける前に寝ちゃったんだった!!!
わわわわ!!!
「いつもの時間に起こしてよ〜!!」
「知らないわよ!」
やばいやばいやばい!!
せっかくのマフラーの日なのに!
私は15分で支度を済まし、とりあえずマフラーと手袋は身につけず手に持って家を出た。
トナカイさんのマフラーが入った紙袋も忘れずに。
……いつも8:05くらいに家を出るのだけれども、10分後……さすがにトナカイさん会えないかな……。
ドキドキしながら、小走りで学校へ向かう。
「え」
いつもの、合流する道。
なぜかそこには壁にもたれかかっている人がいた。
「あ、きた」
トナカイさんだ。
「えっと……」
なんで?
「今日遅くない?あと5分したら俺が遅刻しちゃうからもう行くところだったよ」
いや……
「えっと、なんで……?」
「なんでって、木下に、明日は君が何かしてくるだろうから気をつけてください、って言われて。そんなん言われたら君の前歩くの嫌じゃんか?だから君の後ろを歩いて行こうって思って待ってたの」
実花……。私がマフラー完成したからってトナカイさんの首を締めるとでも思ったのか……?
「あーえーっとですねー……」
「それか、なんか俺に贈り物あったり??」
「え?!」
バレた?!
「なんでわかるんですか!?こっわ、人の心読めるんですか?こわ〜……」
「は?」
「……はぁ。分かってるなら隠しません。あります。どーぞ!」
私は少し熱のある右手で持っていた袋を渡した。
「お、おうさんきゅ……って、なにこれ、マフラー?」
「はい、マフラーです!カシミヤ100%の、高級な一品です!どーぞ受け取りやがれ敏感肌トナカイさん」
「……え??カシミヤ??え?なんで俺が敏感肌って知ってんの??え?」
「実花から聞いたんです。トナカイは敏感肌だからマフラーしないんだって。そのカシミヤは、敏感肌の人でも使えるらしいので、寒そうなトナカイさんにあげます」
「え、てかこれもしかして手編み??」
「もしかしなくても手編みです。5万円のマフラーなんてアナタにあげるわけないでしょう」
トナカイさんは目を丸くして驚いている。
「いやいやいや手編みの方が……え、え??」
「なんですか??あ、巻き方わからないんですか?わかりました私が巻いてあげます!私この日を待ち望んでいたんです!!今、ぐるぐるに巻き付けてあげますね!!」
トナカイさんの手からマフラーを取って、呆然としているトナカイさんの首元にこれでもかというくらいきつく巻いた。
「痛い痛い!!死ぬ!!」
……ちょっとだけ緩めてあげよう。
「うわ、あったけえ……」
お。
「ありがとーな、清水梨花!」
「いえいえ!……へ?!」
え?!
「今……っなんで私の名前!」
「木下から聞いた。マフラーってこんなにあったけーんだな。でもなんだ、俺チョコ期待してたのに」
実花……
「ちょこ?」
「ほら今日バレンタインじゃん?」
……あ。たしかに今日は2月14日だ。
忘れてた……。
「ま、でも俺甘いもの好きじゃねーし、こっちの方が断然嬉しいわ。ありがとな!」
そー言って赤くない鼻のトナカイさんに頭を撫でられた。
「……?」
突然の行動に私は何されているかわからなかった。
「ていうか、今日はむしろお前の方が寒そうだな。お前もちゃんとマフラーしろよ?……じゃ、俺行くわ!お前も遅刻するなよー!」
と思ったらさっさと走って行っちゃって。
……寒くない。今日は。暑くない?
やだ。え、今日いつもより暑くない?
マフラープレゼントしちゃったけどいらないくらい今日は暑い気がする……。
胸の鼓動が早い。
……遅刻しちゃうのに。
ドキドキして。走れない。
ナニコレ。
てか、何あの笑顔。せこいよ!!
「わーーーー!!!やっぱりもっと巻き付ければよかったーー!!!待てーー!!!」
もう見えないトナカイさんの背中を追いかけたけど、全然追いつけなかった。
あの人の体温を上げたかったのに、上がったのは私の体温で。
学校にはチャイムギリギリで到着して
「実花っ!今日はっ!暑いねっ!!!?」
「走ったからでしょ」
そうだよ。この胸の鼓動も、そういうことにしておこう。
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