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「そんな男とキスなんかする私も大概だけど」
「…お前」
新谷君の表情がみるみる険しくなっていく。恐怖を抑えるように、グッと拳に力を入れた。
「あんた一回、私を捨てたでしょ?私と付き合ってる時に美園と寝たんでしょ?よく今度は幸せにするとか言えるね」
「…お前、何がしたいんだよ。俺への復讐?」
新谷君は汚らわしいとでも言いたげに、自分の口元を手の甲で拭った。
「…ホント、何がしたいんだろうね私」
彼から離れて、側にあったイスに腰掛ける。
「ごめん。美園が許せなくて、新谷君を利用しようとしたの。新谷君を奪えば、美園が悔しがるかなって」
新谷君は怒りに顔を歪ませていたけど、暫くして呆れたように溜息を吐いた。
「だとして、お前何でそれを俺に言うんだよ。バカか」
「…バカだね」
「美園みたいな強かな女に、お前が勝てる訳ないことくらい、少し考えれば分かるだろ」
「ねぇ…新谷君」
下唇を、キュッと噛む。
「付き合ってた時、私のこと好きだった?」
新谷君は一瞬驚いたように目を見開いて、それからまた呆れた表情をした。
「好きじゃなきゃ、付き合わないだろ」
「…そっか。うん、そうだね。私も好きだった、新谷君のこと」
立ち上がって、彼の正面に立つ。
「こんなことして…本当にごめんなさい」
ギュッと目を瞑って、深々と頭を下げる。溜息の後、新谷君に「もういいから、顔上げろ」って言われておずおずと顔を上げた。
「バカだな、詩は」
「…うん、ごめん」
「でも俺も、そんな所がいいと思ったんだよな」
「…」
「悪かった、詩」
目を伏せた新谷君に、堪らない気持ちになる。私の身勝手な復讐心が、傷付ける必要のない彼を、傷付けてしまった。
「騙されて腹立ったけど、最後に話せたから許してやるよ」
「なによ、偉そうに」
私達は互いに薄く笑いながら、手も振らずに別れた。彼の部屋を出てからも、やるせない気持ちのやり場がなくて。
中途半端な自分に心底嫌悪しながら、何も考えたくなくて部屋に戻ってそのままベッドに寝転んだ。
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