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闇夜の兄妹
ばちんと兄の頬が母にぶたれた。母は更に兄に暴言を吐き続ける。
「誰のおかげで生きてると思ってるんだ!?ここでお前らの首絞めてもいいんだぞ!?」
私が学校に行きたいとつい漏らしたことが母の逆鱗に触れて、私の頬をぶとうとした母の前に兄が割って入り私の代わりにぶたれたのだ。
「てめーらの親父は、あんたらをあたしに押し付けて逃げたんだ!あんたらを殺そうが生かそうがあたし次第なんだよ!!」
母の顔は厚い化粧で構築されていて、私らでさえもう素顔が分からない。化粧をして男の人に寄りかかり、お金をもらってくる母。
母は好きなものを好きなように買うが、私ら兄妹のご飯はカップラーメンか炒めたもやし。それ以外のものなんて何年も口にしていない。学校にも行っていないし、私ら兄妹は自分の年すら分からない。
狭いアパートで三人で暮らしているけど、アパートの住人たちは私たち兄妹のことを戸籍のない兄妹だとよく陰口を叩いている。
どんなに私たちの家庭が荒れていようが助けてくれる人はいない。母が反社会と呼ばれる人たちと付き合っているから怖がって誰も救えない。
電話で助けを呼ぶにもうちに電話は母のスマホだけ。母は肌身離さずスマホを手にしているから、スマホがどんなものなのか私たち兄妹には分からない。
母は散々に兄をぶって気が済んだのか、黙って部屋を出ていった。兄は何も言わずにぶたれ続けて額と唇から血が出ていた。
「お兄ちゃん……」
ぶたれて倒れた兄の手を私は握る。
「ごめんね。お兄ちゃん、私が余計なこと言わなければ……」
「いいんだ。いつものことだからさ。暮流が無事ならそれでいい」
嫌な名前だ。兄の名前は平競で私が暮流。グリム童話のヘンゼルとグレーテルを元に適当に付けたそうだが、童話さながらに母は凶母だった。本当にいつか殺されてしまうかも知れない。
そう思っても私たちは何をしていいか分からない。童話の内容は昔に父が寝物語でよく話してくれた。字の読めない私たちはただ耳で覚えている。
そんな物語を話してくれた父は、もしかしたら母の恐ろしさを知っていたのかも知れない。父が今、どこにいるか分からないが、私は父は母の恐ろしさから逃げたのではないかと常々思っている。
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