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結局、その晩は未夢からの追及は無く何事もなかったので胸を撫で下ろしていた。
翌朝、いつもどおり登校していたが大きな変化が起きた。通学路の途中にあるバス停に近づいて、いつものように女の子が立っている。
そのまま通り過ぎるか何か合図でもしようか迷っていた。手前まで来てバス停に立っているのは間違いなく空知さんだった。
(どうしよう……)
空知さんは俺の事に気が付いたようで、道路の反対側ではっきりと表情が分からなかったが、はにかんだような笑顔に見えた。
(やっぱり手ぐらい振ったほうがいいよな……)
頭の中で考えていたら、空知さんが小さく可愛らしく手を振ってきてくれた。流石に何もしない訳にもいかないし、恥ずかしさを抑えて立ち止まって小さく手を振り返した。
この位置だと空知さんの顔がはっきりと見えて、とても嬉しそうな表情をしていた。俺はクールに見せようとして平静を装うとしたが、自然と表情が緩んでしまった。もう一度手を振ってニヤニヤしないように注意して俺は歩き始めた。
こんなに嬉しい登校は初めてかもしれないと思っていたが……幸せは続かなかった。
教室に着き荷物を置いて席に座ろうとしたところ何故か未夢が不満げに口を尖らせてやって来た。
「お、おはよう未夢……」
刺激しないように大人しめに声をかけたが、無駄な事だった。
「皓太……私に何か隠していない」
かなりヤバそうな口調なので、周りを見渡し助けを求めようとした。
宮瀬とは目が合ったが、ヤバそうな空気を察知したのか無視されて逃げられてしまった。
「皓太、話聞いてる?」
「あぁ、べ、べ、べつになにもか、かくしてないぞ」
未夢のプレッシャーに押されて噛み噛みになる。
朝から機嫌が悪い事はこれまで何度もあったが、今朝はレベルが違いすぎる……何かあったのかと昨日から今朝までの事を回想するが思い当たる事が無い。
あるとすれば……昨日の帰宅直後の事だけだ。頭を悩ませて考えているフリをしていたが、未夢はますます機嫌が悪くなり状況が悪化していた。
「まだシラを切るのかしら……」
「シラを切ると言われても何も隠していないしなぁ」
痺れを切らした未夢が力強く机をドンっと叩くので俺は少しビクッとなってしまった。
「じゃあ、今朝の女の子はいったい何なの?」
未夢の怒りに近い興奮気味の口調を聞いて、すぐに理解した。
(見られていたのか……)
しかしここで強く反論しても更に悪化するだけなので、上手い事曖昧に誤魔化せないか考えてみたが咄嗟には出てこないので嘘をつかずに冷静になって答えた。
「ミニバス時代の知り合いだけどあまり覚えていなくて、昨日初めて話をしただけだよ」
「そ、そうなの……」
俺の返事が予想外だったのか、未夢は少し落ち着きを取り戻した時にチャイムが鳴った。
(助かった……)
機嫌が治った訳ではないが、仕方なさそうに未夢は席に戻っていったがまだ何か言い足らない感じだった。
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