4:登校

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4:登校

 登校中、佐藤晃に鉢合う事は無かった。校門を抜け下駄箱で靴を履き替え教室へと向かった。教室には佐藤が既に普段仲良くしている連中と一緒に固まって何か話していた。自分の席へ向かう際、ふと佐藤と目が合い、無意識にすぐ視線を逸らした。その一瞬で彼の感情を読み取る事は出来なかった。 「聞いたよー。晃くんと揉めたんだって。」 僕が自分の席に着くと隣の席から声を掛けられた。彼女の名は鈴木栞、先週席替えをした時から席が隣になりよく話しかけて来た。いつも親しくしている友達もいるが。誰にでも気兼ねなく話し掛けるような人だ。僕以外にも数人いる孤立した生徒にも気兼ねなく話かけている姿を何度も見掛けている。 返事に僕がもたついていると、鈴木は僕への興味を失ったようで何も言わずに席を立って親しい友達の元へと行ってしまった。まあいい、こんなもんさ。最初は誰もわかってはくれない。祖母の言葉を思い出して自分に言い聞かせる。 ―じゃあいつになったらわかってくれる様になるの? 心の中の叫びを僕は自覚した上で無視をした。 「あれ、佐々木くん来てたの。ちょっとこっちへいらっしゃい。」 驚いた様子の声は溝口先生だ。朝礼をしにやって来たらしい。溝口先生に呼ばれ僕は教室の外へ出された。まさか来ると思ってはいなかったらしい。僕に黙って母と連絡を取っていたらしく、今さっきの電話で僕を休ませると母は言っていたらしい。僕が朝家を出た事なんて気付いていないのだろう。そしてそのまま仕事へ出掛けたのだろう。思わず笑ってしまった。泣けてくるという事は無かった。母に対して何か思う事はない。ただ単純に可笑しかっただけだ。きっとそうだ。そうに違いない。そうに決まっている。余計な心の声は聞きたくない。僕は考える事を辞めた。 そのまま僕は溝口先生に連れられ職員室横の応接間に通された。 「朝礼が終わったら戻ってくるからここで待ってなさい。」 何故正しい事をしたはずの僕がこんな所に連れ出され、佐藤はみんなと一緒にいるのか。納得できないけど必死に自分に言い聞かせた。最初はわかってもらえない。いつかきっとわかってもらえる。僕という存在を、僕の正義を。いつ?とは言わせない。信じるんだ。僕は父さんのように正義の味方でいたい。
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