孤立

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孤立

 気が付いたら眠っていたらしい。辺りは暗くなっていた。また同じ夢を見ていたようだ。扉を開け一階の様子を伺うと人の気配が。母とも話をすべきだろうか。想像しただけで気が滅入る。今はやめにしよう。そのまま朝までベッドの上で過ごすことにした。その日はもう夢を見る事はなかった。 翌日からは無機質な生活が始まった。家にいても独り、学校にいても独り、誰かに新たに避けられるようになったわけではない。敢えて言うとしたらあからさまになった佐藤晃ぐらいか。元々僕は1人でいる時間がほとんどだった。何ら生活は変わらない。  僕の席は教室の一番左端、前から3番目だ。右隣が鈴木栞で、左隣には窓から一本の大木の枝が顔を出していた。教室にいる時間の大半をその木を眺めて考え事をして過ごすようになっていた。父の事、母の事、祖父母の事、悩みは尽きなかったがその木を眺めていると心が落ち着いた。 初めてその木を見たのは入学式の日だった。今とは違い窓から離れた席で孤立していた僕はふと窓の外に目をやった時入り込んできた時、その咲き誇る桜の大木に目を奪われた。桜が散った後もチラチラ眺めてはいたが、間の席にいる子と目が合うのが怖くて授業中はなかなかゆっくり眺めることが出来なかった。席替えで窓の1番近くになってからは殆ど桜の大木を眺めて過ごすようになっていた。クラスメイトの誰かと目が合う心配がなくなる。それだけでも僕に随分と落ち着きを与えてくれていたのだろう。自覚している以上に 僕に取って大切な存在になっていた。それは本当は母に求めたかったもののような気がする。
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