桜の木

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桜の木

 学校では花の散った青々とした桜の木を見て過ごし、家では自室に篭りただ時が過ぎるのを待つ。無機質な時間は流れるスピードが非常に遅く感じられたが、それでも1日1日と着実に過ぎていった。僕はもう佐藤に事はすっかり忘れていたし、色々考えることも辞めていた。悩みは思考をグルグルと何回転もし、思考を停止して心は落ち着く。解決する事はないが慣れれば落ち着くものなんだと僕は学んだ。僕に心を落ち着かせてくれるような、心が落ち着くまで話をしてくれる仲間なんて居ないから、自分で取り繕うしかなかった。決して解決されたわけではないから簡単なきっかけでそれは幾度も蒸し返された。  その日も学校で無機質な1日を過ぎしていたが3時限目は体育なので男子は隣のクラスで着替え、隣のクラスの男子と合同で授業が行われていた。女子はその逆だ。この日体育の授業はサッカーだ。チーム分けで最後まであぶれた存在になるのはいつもの事だ。  授業が終わり、再び隣のクラスで制服に着替えた。体育の後の休み時間は僕のクラスの男子はみんな教室に戻るのは次の授業が始まるギリギリの時間を狙って戻る。着替え途中の女子に鉢合わせ何か言われるのが嫌だからだ。この時僕はしっかり時間を見計らって自分のクラスの教室に戻ったはずなのに、教室には誰1人いなかった。最初に僕が戻ってきたようだ。   する事もないのでぼんやりと外を眺めていた。周りに人がいてもいなくてもいつもしている習慣だ。その時間はとても心が安らいだ。自分が周りから切り離された世界にいる気がした。たしかに視界は現実を映されているけど僕はそこには存在しない。そんな気がした。そうでありかたったんだ。  不意に視界を遮る黒い物体が僕の目の前を横切った。その物体に視線を向けると、それは佐藤晃だった。わざと僕に視線を合わせて佐藤はニヤッと笑った。 「お前、いっつも外見て何見てんだ?」  佐藤の声を聞いて、夢うつつのような状態だった僕は一気に現実に引き戻された。佐藤は何を見ているかと尋ねてきたが、彼は知っていたはずだ。こんなもの見てどうするんだよと言って、佐藤は窓の外に手を伸ばして一番近くまで伸びた枝を掴んだ。今では花を散らし、青々としたいつも僕が見ている桜の木の枝の先だ。佐藤は右手で枝を室内に引き入れ、両手に持ち替えた。 「ホントこんなものずっと見てて何を考えているんだ?気持ち悪い。」 佐藤は明らかにその枝を折ろうとしていた。
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