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1.
昼休み、女ばかりの教室内はいつものようにさわがしかった。
何とか午前を乗りこえたみのりが筋肉痛にうめいていると、ジュースをストローですすりながら遠藤音々が話しかけて来た。
「なに、あんたお腹痛いの? こないだ終わったんじゃなかったっけ」
──それとは対極の行為の痛みです。
心の中でぼやきつつ、友人に引きつった笑顔を見せる。
大して心配した様子も見せず、音々がため息まじりに続けた。
「幸羽、やっぱ緑陽の男子とつきあい始めたみたい」
ここしばらくの話のネタを友人に改めて告げられて、みのりはふせていた顔を上げた。
「通学途中にせまりまくって何とかモノにしたらしいよ。結局最後は押しなんだね」
整ったボブの毛先を揺らし、うらやましげに首を振る。みのりはへえっと眉尻を上げた。
話題の中心となっている私立緑陽高等学校は、みのり達が通う学校のそばにある有名な私立学校だ。県下に名高い進学校で、伝統ある男子高である。
全国屈指の進学実績と自由な校風が売り物で、その制服を着ているだけで周囲の見る目が全く違う。みのり達が通う共栄女子高もそれなりの進学校ではあるが、お坊ちゃま学校の緑陽とはやはり格が異なっている。緑陽の男子が彼氏だと、それだけでクラスでも格上げされるのだ。
みのりと音々の友達もその制服にやられたクチで、一度みのりも意中の彼を音々と一緒に見に行った。だが、日々熱烈に語られたわりには拍子抜けする容貌で、制服マジックとは恐ろしいもんだと改めて思い知ったのだ。
「みのりは緑陽に知り合いいないの? 同じ中学の同級生とかさ。……いないか。やっぱりいないよね」
音々が飲んでいたジュースを置いて、しみじみとため息をつく。残念そうな声色にみのりは深く眉をよせた。
「いない……わけ、でもないんだけど──」
どうやら思ってもみなかったらしいみのりの色良い返答に、音々の顔つきが明らかに変わった。
「ええっ、なんで教えなかったの! その人紹介しなさいよ‼ もしそいつがだめだったとしても、そこからどんどん芋ヅル式に引きずり出せばいいじゃない」
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