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 10年前の札幌で、当時を振り返って玲君が笑った。 『僕に泣かされなかったピアノの先生は、咲希先生だけでした』  ピアノに落書きされた時は、正直泣く寸前だった。でも、若かった分、必死だったの。  13歳の玲君は、ヤンチャでも目に聡明な光があって、大人を試してるんだ、って分かった瞬間、負けられないって思った。  ピアノを弾く意味を納得すれば、この子はきっとピアノと向き合ってくれると信じての真っ向から真剣勝負。  叱って、一緒に落書き落として、お母様に一緒に謝って、その後少々長めのお説教をした。  思い出話の中で、『あの時は必死に戦った』と答えると玲君は笑いながらキスしてくれた。 『僕は、咲希先生の真剣さに打たれたんですよ』
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