ツかれる男 第一章

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ババアってなんだよ!? マユコの生霊とさゆちゃんが呼んだらしい通りすがりと、どちらも若い女性なはず。何故、ババアが出てくるのか?そもそも、ババアはシンイの口振りからすると、数日前から俺の周りをウロウロしていたようだが――それとも、本当に俺の守護霊かなにかなのか?それなら、ひいばあちゃんか?ならいいけど…… これ以上、何かあるのか?怖いから、やめてくれとは言えず、俺はなるべく平生を装った。 「そうだよ……お前、昼からババアババアって……」 内心怯える俺に、シンイがケロリとした調子で言う。 「なんか、一週間くらい前から居たんすよ!それで、めっちゃ睨んでくるし、全然追っ払えないし、守護霊的な奴かと無視することにしたんすけど、したら、話しかけてくるし、何か言いたいのかなぁって思っても、先輩は、全く俺に悩みとか言ってくれないし――」 キャーと叫び出したいのを堪えた。 「つーか、お前さ、見えるヤツ暴露したからって、俺の事怖がらせようとしてない?」 半ば、自分に言い聞かせるように、シンイを問い詰めると、シンイも負けじと言い返してきた。 「してませんよ。そもそも、その見えるヤツって思われること自体嫌だし、事実、先輩も会社でまで、その体で話振ってくるじゃないっすか?信じてもらえたとして、逆にそういう態度取られるのもマジ勘弁なんすけど~」 「じゃあ、そういうこと言うなよ」 「じゃあ、聞かないで下さいよ」 いつものやり取りなのだが、スガハラには険悪に思えたのか、それとも思う所が何かあったのか「あの……」と、口を挟む。 「そのババアって、どんな人ですか?」 そこで、俺もハッと思い当たった。しかし、シンイは気付くことなく、聞かれたことに答える。 「いや、容姿は、少し前まではオニババみたいな形相だったけど、今はなんつーか、普通の田舎のばあちゃんって感じっすよ?なんか、わい?おいどん?みえとーんか?みたいな、ちょっと言葉はわかんねっす」 スガハラの目に感動とも取れる輝きが浮かんだ。 俺は、まさかな――と、やはり半信半疑ではある。 これ以上聞きたくもないが、聞かずにもいられない。 「で、そのババア、今は何処にいるんだ?」 「え?そりゃあ、先輩の右肩の辺りに」 シンイが指さした先から、ゾクッと冷たいものが流れ全身を駆け巡った。聞かなきゃ良かった。 反射的に右後方を向き、払う仕草をしてしまっていたらしい。それを見たシンイが、プッと吹き出した。 「嘘っす。冗談、冗談。今は見えたり見えなかったりっす」 「て、、てめぇ……」 でも、見えたり見えなかったりということは、居たり居なかったりということか?しかし、何故俺に? この疑問を察知したのか、シンイが続ける。 「まあ、でも、先輩、ツかれやすいタイプですから」 「は?」 「よく背負ってますよ?」 「いや、お前、この期に及んでまだ言うか?」 若干、涙目で睨みつけたが効果はなかったらしい。 「今までは先輩自身が、信じてないというか意識してないから良かったけど、これからはどうなりますかね~」 シンイの顔にニヤニヤが戻ってきた。 やめてくれ。本当にやめてくれ……いい歳して泣いちゃうよ? 「お前なぁ、本当に悪ふざけはよせよ?」 せめてもの強がりで、精一杯凄んでみたが、煽りとでも捉えられたのか、ニヤけ顔をスっと引っ込めたシンイは妙に真剣な顔を作る。 「じゃあ言わせてもらいますけど、あの生霊もさゆちゃんが呼んだやつも、なんで先輩の部屋にいたんすか?本来なら、生霊はタケチ、さゆちゃんのはさゆちゃんについて行くでしょ?」 言い終わるが早いか、俺は頭を落としていた。ガンと派手な音を立てて、テーブルに額がぶつかる。 痛い――でも、顔をあげられない。こわいよ。怖すぎるだろ? 「ちょ、大丈夫ですか?サタさん!」 隣でオロオロするスガハラにシンイはこうも言った。 「この人、かなり面倒で、ツかれる男だけど、これからはタケチが守ってやるんすよ」 「は――はい!」 スガハラが横で力強く頷く気配があった。 ふざけんな!勝手に決めんな!! これから、俺はどうなるんだ!? テーブルに額を擦り付けたまま、俺は少し泣いた。 ツカれる男 第一部~完~ 2nd stageへ続く
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