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父の骨壷
秋、父さんが死んだ。過去形だ。
約2年の闘病生活、と言うと聞こえは良いが、脳梗塞で半身不随になったのを母さんが自宅介護していただけだった。深夜、何度も母さんが起こされてあーだこーだ言われていたのは、母さんに同情するのは仕方ない。
2回目に倒れた時に入院した。もう長くないだろうと言われて、集中治療室に運ばれた。
その後、入院病棟に入った父さんは未だ若くて、髪も黒かった。他の白髪のお爺さんお婆さんより、20も30も若いように見えた。
それが日に日に痩せて行った。
母さんの言葉にも反応しない。
「夏を越せたら良いですね」
医師の診断は父の寿命を宣告していた。
医師の言う通り、夏を越して秋に差し掛かる頃合に父は亡くなった。臨終の間際、それまで閉じていた目をかっと見開いて家族の顔を見て、そして心電図はフラットになった。
「ご臨終です」
秋、と言っても残暑が残る、暑い日だった。
父の遺体は焼いたが、年の割に骨が確りして骨壷が重たかった。
父の親戚は私達は知らないので、墓も作っていない。部屋の片隅に骨壷と線香立てがぽつねんと置かれているだけだ。仏壇すら置いていない。偶に果物が置かれる。
「さようなら」は言いたくない。
「ありがとう」はもっと言いたくない。
かと言って、他に言える言葉は持ち合わせていない。
結局、私は亡くなった父になにも言えないまま、そろそろ5年が過ぎようとしている。
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