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復讐
(九)復讐
タイへ渡った野見山は、先ずムエイタイのジムへ入門し、キックボクシングを始めた。虚弱体質であった野見山は徐々に強くなっていった。
日本語学校の授業は夜なので、昼間はほとんどムエイタイのジムで汗を流した。また、射撃も習い始めた。
こうして一生を駄目にした大山達三人に対する復讐の準備は着々と進行していったのである。
そして三年後、野見山は突然帰国した。
帰国した野見山は三人と当時の校長に復讐する綿密な計画を立てていたのだ。
そして、最初のターゲットになったのが武道の達人の亮介であった。
三人の行動は把握できている。学校の教師という者はほとんどが、家庭訪問などを除いたら家と学校の往復である。
先ず、大山は少しレベルの落ちる北高校へ転勤になっていた。田島と東田はまだ東高にいる。校長は定年退職し、短大の学生部の部長をしている。
先ずは大山からだ。
*
亮介が学校を出るのは決まって十時。そしていつも車で同じ道を運転して帰る。それは野見山も何回も下見をしていたので掴んでいた。十時に学校を出た亮介は必ずコンビニへ寄って晩飯を買う。そしてコンビニからアパートまで十分である。
亮介はいつものようにコンビニを出るとアパートへ向かった。アパートには有料の駐車場がある。そこへ車を駐車してからエレベーターに乗って四階の四〇三号室の鍵を開けて入るのである。
野見山は四階の踊り場で待機していた。予想通り亮介が帰宅する。そして鍵を開けた瞬間、野見山は彼の頭をめがけてピストルを発射した。ピストルの弾は頭を貫通し、大山は即死であった。
野見山は重い彼を部屋の中へ運び、火を放った。
翌日の新聞に、この事件はでかでかと載った。
「教師銃殺される。犯人は不明。恨みによる犯行か?犯人は火を放って逃走」
また、火事の勢いが強く、隣の家まで焼失したが、野見山は平気であった。
実は野見山はタイからアフガニスタンに入り、そこでイスラム過激派ゲリラと三ヶ月間寝食を共にしていたのだった。殺すことには既に慣れっこになっていた。村を全滅させたり、学校を襲って女教師を撃ち殺したり、泣き叫ぶお母さんの前で平気で子供を殺したりしていた。良心がハイエナのように完全に麻痺してしまっていたのだった。
大山の葬儀がしめやかに行われた。田島と東田も出席していた。
二人は話し合っていた。
「おい、これは誰がやったんやろうなあ?」
「まあ、あの正確や。恨まれることもあったやろ」
「まさか野見山やないやろなあ?」
「アホなこと言うな、あの弱虫にこんなことできるはずないがな」
「でも、もしもあいつがやったんやったら次は俺達や」
「何をビビってるねん?アホらしい」
ところが、翌日に二人の家の郵便受けにワープロで打たれた手紙が投げ込まれた。
「次はあなたの番です」とだけ書かれていたのだ。
「おい、変な手紙が来たぞ。島田先生のところには来てないか?」
「来たよ。それがどないしてん?」
「あんたよく平気でいられるなあ、こんなことするの野見山に決まってるやないか」
「そんなもの怖がっていてどうするねん」
「でも、あいつはピストル持ってるんやぞ」
「心配せんでも、日本でピストルなんか使ったらすぐに警察が調べる」
「警察に言うた方がええんと違うか?」
「アホ。そんなこと言うてみろ、中山の件もばれてしまうぞ」
ところが、既にこの二人にも野見山の復讐の魔の手が忍び寄っていたのであった。
*
その年の初夏、野見山は旧ソ連製のAK自動小銃を片手に西前先東高校の校門に立っていた。校門の前は広い校庭であるが、人っ子一人いなかった。体育の授業もないのであろう。そのAKを持って職員室に現れた。ドアを足蹴にしてから野見山は職員室へ易々と侵入した。何人かの教師が仕事をしていた。
「ズガガガガ」
AKの鈍い発射音が職員室の天井に響いた。
「うぎゃーーーーーー」
職員室は瞬く間に阿鼻叫喚の地獄となった。
「おまえ等を皆殺しにはしないから安心しろ」
野見山は落ち着き払って言った。男子生徒が一人何か教師に用があったのであろう。その場から逃げようとしたので、野見山はトカレフで頭を撃ち抜いた。
「きゃーーーーーー」
女性教師の悲鳴が聞こえた。
「俺は野見山や。アフガニスタンから帰ってきた。東田と田島、こっちへ来い」
誰かが携帯で警察を呼ぼうとしたので、その教師もトカレフで撃ち殺した。
「俺に反抗する奴はこうや」
「田島、車を出せ」
「は、は、は、はい」
田島が外へ出ようとした。
「おかしなことをしたらこの生徒や教師と同じ目に遭うぞ」
「の、の、の、野見山先生、わかった。話し合いをしよう」
東田が言ったが、野見山は聞こうともしなかった。
「話し合いなんかないんや。お前も来い」
「わ、わ、分かった」
こうして島田に車を運転させて東田を助手席に乗せ、島田のシビックが出発した。島田の後頭部にはトカレフの銃口が当てられている。
「おまえら、携帯持ってたら窓から捨てろ」
野見山が言ったので二人は言う通りにした。
「今からどこへ行くか警察に分かったら大変やからなあ」
野見山は落ち着き払って言った。こいつは人を殺しておいて何も感じていない。
「(狂ってる)」二人は同時に思った。
「環状線に登れ。それから警察が突けてきたりしたらこいつを発射するぞ」
しかし、既に警察のヘリが旋回していた。
「警察が来やがった。それならお約束や」
そう言うと野見山は後部座席から東田の背中をトカレフでぶち抜いた。
「おい、東田、この俺様の携帯で警察に電話しろ。後をつけるなと言え」
そう言って野見山は東田に携帯を渡した。
「警察のかた、私は今こいつに撃たれました。こいつは本気です。後をつけないで下さい。後をつけたら殺されます」
そう言ってから十分後くらいにヘリは姿を消した。
野見山は後ろから突けてきているであろう警察車両に今度はAKを乱射した。覆面パトカーらしき車両は止まった。
やがて車は人気のない倉庫に到着した。銃口は東田に向けられたままだ。
「中に入れ」
野見山が二人に命令する。二人は重い扉を開けて中へ入った。中には椅子とロープが用意されていた。
「おい、東田、この田島をロープで椅子に固定しろ」
東田は言われるままに田島を椅子に縛り付けた。
「次はお前や」
そう言うと、野見山は田島をもう一つの椅子にロープで固定した。
「それでは、楽しいショーの始まり始まり」
野見山はそう言うと、何かビーカーのようなものを持って来た。
「これは硫酸や。お二人にかけてやる。俺と同じ思いをさせてやる」
そう言って先ずは田島のズボンとパンツを脱がせ、男根に硫酸をかけた。
「ぎゃーーーーー。熱いーーーーー。やめてくれ、謝る、謝るからやめてくれ」
そう言っている田島をよそに、野見山は鼻歌を歌い始めた。
「私は真っ赤なリンゴです、生まれは寒い北の国、リンゴ農家のおじさんに---」
歌いながら野見山は、今度は東田のズボンとパンツを脱がし、田島同様に男根に硫酸をかけた。
「えへへへへ、硫酸、硫酸、次はどこへかけようかなあ?」
「こいつ狂ってる」
田島は東田に言った。すかさず野見山は言った。
「ああ、狂ってるとも。俺様はアフガンで女教師と生徒をぶち殺したんや。おまえらなんか何とでもなる。今度は顔や」
そう言って野見山は二人の顔に硫酸をぶちまけた。顔の皮がめくれ、真っ赤になった。
「うぎゃーーーーー。このき○がいがーーーーー」
二人は同時に叫んだ。
やがて警察がやってきた。機動隊も来ている。やがて警察による説得が始まる。
「野見山吾郎、直ぐに銃を捨てて出てきなさい」
「警察め、もう突き止めやがった」
そう言うと野見山は機関銃を警察めがけて乱射した。何人かの警官が殉職したもようである。
「要求は何や?」
機関銃を持ったまま野見山は大声で言った。
「元校長の田山省吾をここへ連れてこい。連れてこなければ一時間に一発、こいつらの足や腹をめがけて銃を撃つ」
「分かった。連れてくる」
その頃、警察は元校長の田山を説得していた。
「田山さん、どうか説得に行って下さい。元あなたの学校の教師でしょう?」
「嫌やー。わしは行かない。わしら市民を守るのが警察やろうが?」
「必ずお守りします。だからお願いです」
「何で殺されに行かないといけないんや?わしは行かない」
結局校長は来なかった。それならば二人をじわじわと殺すしかない。
野見山はトカレフを取り出すと、田島の足を撃った。
「うぎゃーーーー、助けて下さい。何でもします。助けて下さい」
「あかんなあ、もうこうなったら同士討ちや」
そしてトカレフの銃口を今度は東田に向けた途端、野見山は倒れた。SWATの銃が頭を貫いたのであった。
了
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