しつこく続くいじめ。

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しつこく続くいじめ。

その時である。一人の女生徒が裏門を通りかかった。確か三年二組の藤岡だ。美人で有名な生徒だが、何か援交しているという噂もある。  「おい、野見山、あ、違った。ドド山。あの女生徒の前へこの格好で出て行け。わしらがスマホで撮影してSNSにアップしたる」  「嫌です。そんなことしたら僕はクビです」  「お前なんか講師なんやからクビになってもいいやないか?またどこかの学校へ潜り込んだらええだけやろ?」  「おい!藤岡!」  藤岡は一瞬こちらをちらりと視た。そして下半身素っ裸の野見山を発見し、顔を隠して「キャー」と言いながら逃げ去った。  「何や、おもろないのー。もうちょっとで動画撮れるところやったのに」  亮介がため息をついた。野見山大声で叫んだ。  「藤岡さん、助けて下さい!僕、先生方にいじめられているんですー!」  この言葉が三人の怒りの火に油を注いだ。東田が野見山にビンタを喰らわせた。  「お前、今何言うた?もう一回言うてみい!」ビンタは続いた。野見山の頬が赤く膨れてきた。その間、亮介と田島が脇腹に蹴りを入れ続けた。  ここで動物的勘が働いたのか、野見山は死んだふりをしようとして静かになった。  「おい、こいつ動かへんようになったぞ。殺してしもたんとちゃうか?」  「どうせまた死んだ真似やろ。でも少しまずいな。よし、逃げろ!」  三人は蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。東田と田島は何食わぬ顔をして部活動に出かけ、亮介は職員室へ帰っていった。 *  翌日、野見山が教室へ行くとまた黒板に落書きが大書されていた。  「変態教師ドド山ボロ彦」  そして一人の男子生徒が髪の毛をかき分けながら、俺は女性の味方だと言わんばかりに大声で野見山に言った。  「先生、昨日藤岡に一物を見せたって本当?」  すると教室のあちらこちらで生徒達が誰に言うともなくヒソヒソと話す声が聞こえた。  「変態教師」「変質者」  「ドド山先生何したん?」  「何か藤岡にあれを見せたらしいよ」  「いやー、変態。きもー」  野見山は努めて平静を装い、何事もなかったかのように授業を進めようとしたが、生徒達がそれを許さなかった。  「先生、答えてよ。ほんまに藤岡さんにあそこ見せたの?」  女生徒が言った。その子の顔は何か吐瀉物でも見たかのように歪んでいた。そしてその顔で野見山を凝視していた。  「ほんまよ。先生、今日藤岡さんが休んでいるの先生のせいやで」  ここで野見山は亮介ら三人にいじめられていることを正直に話そうと思った。絶壁の崖まで追い詰められた動物がとらざるを得なくなった最後の手段であった。  「皆さん、聞いて下さい。僕は大山先生(亮介)や東田先生や田島先生にいじめられているのです。あの三人が僕のパンツを脱がせて『藤岡に見せろ』と脅したんです。僕は悪くはありません」  「うわー、こいつ人のせいにしている。最低やなあ」  「ほんま、最低」「最低の淫行教師」「変態教師辞めろ」  そんな声が生徒から起こった。  野見山はいても立ってもいられなくなった。いじめを行った教師だけではなく、今はこの生徒達までもが自分をいじめている。そう思うと冷静さを保てなくなってきた。  冷静でいようと思えば思う程野見山は、崖っぷちに立って誰も助けてはくれないもどかしさにのたうち回る罠にかかった鹿のように何も言えなくなってしまった。  「(みんな敵なんだ。この学校では校長も教師も生徒もみんな敵なんだ)」  そう思うと野見山は韋駄天のように教室から駆けだして廊下を走りに走った。そして気がつくと、階段を降りて授業をやってない体育館へ逃げ込んでいた。  そこで野見山はおいおいと泣いた。  そして次の時間、野見山は校長と教頭に呼び出された。  校長室へ入るや、差別者の校長は居丈高に叫んだ。  「野見山君、本当に女生徒にいかがわしいことをしたのですか?」  野見山は泣いていた。自分の身にふりかかったこの不条理をどう払いのけたらよいのか分からず、涙声になって校長に訴えた。  「違います。大山先生と東田先生と田島先生にパンツを脱がされて女生徒に声をかけるように強要されたんです」  「本当ですか?嘘をついたり言い逃れしようとしても駄目ですよ」  「嘘じゃありません。本当です」  そして次の校長が発した言葉に野見山は正気を失った。  「では、その三人の先生方を呼びますからいいですね?」  そんなことをされたらどんな復讐が待っているか分からない。気弱な野見山はさらにトーンダウンした声で哀願した。  「やめて下さい。そんなことしたらどんな目に遭わされるかわかりません」  そして、次に校長が発した言葉に野見山は再び岸壁から突き落とされたように目が回るのを感じたのだ。  「あの三人は熱心な先生です。人を陥れるのはやめなさい!今後、処分が決まるまで野見山先生は自宅待機してもらいます。それから藤岡という生徒の家にきちんと謝りに行くのですよ。あなたも大人ならそれぐらいのことは分かっておりますね」  結局、処分は何もなく、野見山は二週間後に教職に復帰した。当然、藤岡という女生徒の家には菓子折を持って謝りに行った。着替えをしていて気づかなかったという釈明をして、この件は何とか丸くおさまった。 (二)野見山、教育委員会へ直訴する  野見山にはもう耐えることができなかった。明らかに彼の忍耐力の限界を超えていた。どうして講師だという理由だけでこんな不条理ないじめに遭うんだろうか?そう思って、教育委員会へ内部告発するという挙に出たのだ。  野見山は県の教育委員会の教職員課に電話を入れた。  「もしもし、教育委員会さんですか?私は西前先東高校で講師をやっている野見山といいます」  「はい、ご用件はなんでしょうか?」  「実は、僕講師なんですけど、正教員の先生方からいじめを受けているんです」  教育委員会は思った。  「(またいじめか?先生が先生をいじめたりするわけがない。これは適当にやり過ごそう)で、どんないじめですか?」  「靴を隠されたり、車をパンクさせられたり、机の上に墨汁を撒かれたり、変なあだ名をつけられたり、それから生徒にもこのあだ名を呼べと強要したりするのです」  「嘘でしょう。先生がですか?生徒のいたずらじゃないんですか?」  「本当です。最初は屋上で、それから裏門へ呼び出されて殴られました。パンツを脱がされて女生徒の前に立たされました」  「それやったら警察へ行って下さい。あなたの言っていることが本当とは思えません。それにあなたも悪いんじゃないですか?あなたはきちんと正教員のお仕事をお手伝いしたりしたのですか?いつ何時に帰られるのですか?」  「五時には帰ります」  「五時に帰る先生なんて聞いたことがありません。あなたは五時に帰って何をしているのですか?」  「教員採用試験の勉強です」  「だからいじめられたなんて妄想を抱くのですよ。少しは学校のお仕事を手伝ってあげたらいかがですか?」    もう教育委員会も信用できない。野見山は活火山の噴火口から真っ逆さまに落とされたような気分になった。  翌日、校長が職員朝礼で言った。  「何か教育委員会に内部告発して教師がいたようですけど、そんなことはやめて下さい。何でも、職員室の中でいじめがあるということだったそうですけど、本校にそのような教師はいません」  もう野見山は驚かなかった。  「これが管理職なのだ。奴らは後数年で目出度く定年退職なのだ。こんな所で騒ぎを起こして欲しくないんだ」  そう思っていた。  その日から野見山は保健室の常連になってしまった。
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