接待

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 午後七時。川西部長とハイヤーで銀座の料亭まで向かった。  車中、川西部長は今夜の接待相手の、黒崎という人の事を教えてくれた。  アメリカの大手投資銀行「ゴールドブラザーズ」東京支店の為替部門を統括する立場の人で、肩書はシニアバイスプレジデントだそうだ。日本的に言うと本部長にあたるらしい。  川西部長は元々はゴールドブラザーズにいて黒崎の下で働いてたそうだ。 「私がスーツにこだわるようになったのも、黒崎さんの影響なんだよ」    自慢げに川西さんが言った。 「黒崎さんはダンディでかっこいいんだ。為替ディーラーならいいスーツを着なきゃダメだって言われてね。それでイタリア製のスーツを一着頂いて、それ以来、イタリアブランドにハマってるんだ」  機嫌良さそうに川西部長が笑った。 「石上君、仕事のできる男というのは身なりを整えなきゃダメだよ。まあ、君もわりかしいいスーツ着てるね」 「ありがとうございます。パターンオーダーで作ったスーツです」 「既製品を着てないのはさすがだが、一番はフルオーダーで作るスーツだぞ。パータンは基本が決まってるからな」 「パターンオーダーでも細かくサイズ調整してもらえますから。部長のような高給取りになったらフルオーダーのスーツを揃えようと思います」 「君は口が上手いな」  川西部長が笑った。 「今夜もその調子で頼むよ」  川西部長に肩を叩かれた。  わりとお世辞に弱いタイプのようだ。今夜の接待が成功すれば強い後ろ盾になってくれるかもしれない。  上司に気に入られる事はやはりサラリーマンとして大事な事だ。
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