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「先生、大丈夫ですか?」
弱々しい声に心配になる。
「え」
「なんか元気がないというか」
「そんな事ないわよ。石上君と話せて楽しいもの」
先生の声が元のはつらつとした声に戻った。
ハッとした。居酒屋で先生は気持ちをため込むタイプだって話してくれた。
だとしたら、今の先生は無理してるんじゃないのか。
俺と別れた後、旦那と喧嘩するような事があって、辛い想いをしてるんじゃないだろうか。
「先生」
「何?」
「俺の前では無理しないで下さい」
電話越しに先生が息を飲むのを感じた。
「石上君はやっぱり優しいわね」
「365日、24時間対応で先生を見守ります」
先生がクスリと笑った。
「女の子にそういう事ばっかり言ってるんでしょう」
先生が茶化すように笑った。
「先生は特別ですから」
「学生時代に怒られたから?矢島君の結婚式で言ってたわよね。私にきつく叱られたって」
「普段、優しい先生にあそこまで怒られるとは思ってなかったです。矢島とビビりました」
「インフルエンザだってのは知らなかったわよ。あの時、寝込んでたって言ってくれれば良かったのに」
「余計な言い訳はしないんです。武士ですから」
「武士って」
先生が俺の冗談に笑った。先生の笑い声を聞いてほっとする。
「あ、ごめん。もう行かなきゃ。講義があるの」
急に先生の声が慌てた。時計を見ると1時になる。
午後の講義が始まる時間だ。
「また電話するね」
そう言って先生は電話を切った。
先生が次の電話の約束をして切ってくれた事が嬉しい。
午後の仕事も頑張ろう。
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