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嗚呼、思い出した。
ついこの前に受け入れた依頼主だ。
最近は色々と忙しくて、姿を見ただけではどのお客さんだか判断がつかない。
彼女の遠慮がちな声に、ゆったりと返事を返した。
「お待ちしておりました、朝倉さん。どうぞこちらへ」
カウンターの前に手を差し出して、そこへ座るように彼女を促した。
朝倉と名乗った女性は、小さくぺこりと頭を下げて案内された席につく。
あらかじめ落としておいた熱いコーヒーをカップに入れて、スプーンとセットでカウンター―そして朝倉が座った前に静かに置いた。
コーヒーの苦い香りが、徐々に店内を包み込んでいく。
―この匂い、本当に好きだな。そんなことをふと思う。
朝倉はどうも、とだけ告げて入れたばかりのコーヒーに砂糖をスプーン一杯分だけ放り込み、くるくるとかき混ぜて。
一口飲んで、朝倉は口を開いた。
「手がかりが、少しだけ見つかったんです。今日はそれを渡しに」
「――とても助かります。一応、調べてはいるのですが…中々進展しなくて。後一つお願いがあるんですけど、朝倉さんのご自宅に伺ってもよろしいですか?」
「はい、大丈夫です。帰りに住所を教えておきます」
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