prologue

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「終わった」とやってきた瑞輝は、かすれた声で言った。声変わりの時期を迎えたらしく、ここ数日は声の調子が変だ。  晋太郎は用意していた菓子を出した。  瑞輝は箱からひょいひょいと両手で一つずつ取ると、社務所の畳の上にあぐらをかいて食べはじめた。何度言っても行儀は悪い。こんな神社なので参拝者は滅多にないが、たまに誰か客が来ても、瑞輝の態度は悪い。何と言うか行動のほとんどが粗雑だと言える。割ときっちりした性格の晋太郎とは、なかなか理解し合えないのも当然と言えた。 「瑞輝」晋太郎は腕組みをして彼を見た。瑞輝はまた説教されるのかとうんざりした表情で晋太郎を見上げる。もぐもぐと口は饅頭を食べ続けている。 「なんでおまえはそう泥だらけなんだ。せめて玄関で土ぐらい払って来い。来年は中学生なんだぞ。いつまでも子どもみたいに遊んでるんじゃない」 「はーい」と間の抜けた返事をして、瑞輝は立ち上がろうとした。 「こら待て、話は終わってない」晋太郎は目で座るように指示する。瑞輝は面倒そうに座った。 「正座だ」と言われ、瑞輝は本当に心の底から嫌がるようにゆっくりと正座する。それでも正座をすると何となくかしこまった感じに見えるから不思議だ。晋太郎は小さく息をついた。 「中学、どうする? ここから通うか、下で下宿するか。特に冬は大変だろう。今より遠くなるし、クラブ活動とかしたら、山道を夜歩いて来るのは危ない」 「別に山賊が出るとかじゃないし、危なくはないだろ。だいたいクラブとか入るつもりないし」  晋太郎は眉を寄せる。「おまえ、体力余ってるんだから、何かスポーツでもやりゃいいんだよ。サッカーでも野球でもやりゃ、ちょっとは友達もできる」 「けっ」瑞輝は思いっきり吐き捨てるように言った。  晋太郎はため息をつく。「友達の一人も作れんような奴は、大人になっても大した人間になれないぞ」 「だって向こうが」 「向こう」晋太郎はじっと瑞輝を見た。一学期末の懇談で、担任の教師が言っていたことを思い出す。瑞輝が学校で孤立しているということを担任の女性教師が心配していた。晋太郎は、それは瑞輝が悪いことをしたせいですかと焦ったが、教師は違うと思うと答えた。晋太郎はそれだけでホッとした。瑞輝が問題を起こしていなければ、それで一安心だった。
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