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「三日、続けてやった」瑞輝は申し訳なさそうに告白した。
「三日続けて、先生が遅刻したのか?」
瑞輝は黙ってうなずいた。
晋太郎はにわかに信じられずに、それが偶然である可能性を考えた。
「二日目はすごいって言ってたのに、三日目になったら、みんな俺を怖がって近づかなくなった。学校に来るなって言われるのかと思ったら、それを言って俺に仕返しされるのが怖いみたいだ。誰も何も言わない。だから俺も喋らない」
「いつからだ?」晋太郎は静かに尋ねた。
瑞輝は黙って木の根を見ている。
晋太郎は六月頃、瑞輝が仮病を言い出したのを思い出した。腹が痛い、頭が痛いと言って学校を休みたがった。勉強もちょうどつまづいており、甘やかすわけにもいかないから無理矢理学校に行かせた。夏休みは神社の手伝いと宿題で忙しく、九月になると同時に瑞輝はまた学校を渋りはじめていた。実際、先週はいつも通りに家を出たにもかかわらず、一時間目を遅刻するという日もあった。何をしていたのかと聞かれると、瑞輝は道に迷ったと嘘をついた。
「どうして今まで黙ってた?」
晋太郎はじっと瑞輝の伏せた目を見た。さっきから視線を合わせない。
「瑞輝、俺はおまえの保護者だぞ。相談してくれりゃいいのに」
瑞輝は首を振る。
「じいちゃんを死なせたからか?」
晋太郎が言うと瑞輝は小さくうなずいた。「怒ってるだろ」
晋太郎は息をついた。「まぁな。おまえが親父を見くびってることにな。おまえのじいちゃんは言っておくが、そんじょそこらの神主じゃないんだぞ。びっくり発言も多い人だったけど、ちゃんと辻褄は合ってた。不思議体験だって多い人だった。おまえの比じゃない。出張が多かったのは覚えてるか? あれって呼ばれて行ってたんだぞ、うちの近くの土地が暴れるので鎮めてくださいとかな。俺にはさっぱりわからんが、親父はひょいひょい行ってたな。おまえ、何度か連れて行かれたろ?」
瑞輝はようやく晋太郎と目を合わせた。「行った」
「何か見たか?」
「見た…っていうか、頭が痛くなって、気持ちが悪くなった」
「親父が何かしたら、それが消えただろう?」
瑞輝はうなずいた。確かに。
「じいちゃんは、おまえの目に龍が棲んでるって言ってた。龍をコントロールできるようにうちに預けたらどうだって」
瑞輝はうなずいた。それは小さい時から言われて来た。龍がいるからみんなと違う髪と目の色なのかと聞いたら、じいちゃんはそれは知らんと笑っていたが。
「器が大きくなると、中身も大きくなる。おまえの中の龍も大きくなりはじめてるんだろう。急におまえの言霊が強くなったのもそのせいだろうな。放っておくと、そのうち飲み込まれる」
「嫌だ」瑞輝は眉を寄せた。
「そりゃ俺だって嫌だ。龍の化身と暮らしたくない」
「どうしたらいい?」
「おまえ自身が強くなるしかないだろう」
「どうやって?」
晋太郎はすがりつくような瑞輝を見た。
「それはおまえのじいちゃんが教えてくれなかったからな、俺たちで探るしかない」
「晋太郎も実はすごい神主なのか?」瑞輝が期待して言う。
「俺がすごかったら、親父亡き後も、同じように呼ばれているはずだろ」晋太郎は笑った。
「そっか」瑞輝はがっかりして晋太郎を見る。
「親父が言うには、おまえは来るべくしてここに来たんだそうだ。親父が呼んだのかって聞いたら、はぐらかされたけどな」
晋太郎は瑞輝を見ながら少し考えた。二十三離れた子どもの言動は、晋太郎にはちょっとわかりかねる。今までだって瑞輝の行動には理解できないことが多かったし、性格も全く違うから気持ちを推し量るというのも難しかった。
唯一理解できることは、瑞輝が今ぶつかっている壁を、晋太郎もかつて見た事があるということだ。晋太郎は慎重だったので簡単には口には出さず、自分の中で消化してきたが、瑞輝はそれを軽々しく外に出してしまったというだけの話だ。
晋太郎は瑞輝の恐怖感を理解することができたが、今それを言って瑞輝をぬか喜びさせることもあるまいと思って口を閉じた。
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