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2 占い師の金
「今日もありがとうございました」
女はそう言うと、自分から金を手渡してきた。一万円札が一枚。アタシは思わず溢れる歪んだ笑みを、優しい老人の笑顔に変えて、それを受け取った。そして最後に一言、女の目を見てゆっくりと言った。
「不安になったら、遠慮なくいつでも来なさい。さようなら」
女は笑ってさようなら、と頭を下げ、『占いの巣』を出て行く。だんだん足音が遠ざかって行くのを聞きながら、アタシは大きく背伸びをした。
「簡単なもんだねえ」
アタシは思わず、そう口にした。
アタシがここで店を開いてから、まだ一年も経っちゃいない。にも関わらず、馬鹿な人間がどんどん集まって離れないおかげで、金がどんどん入ってくる。
金が入れば、それで怪しくも魅力的な小道具を調達し、そうすることで馬鹿がますます集まり、金が入る……。仕事は、十数分間適当なことを喋り、適当に話を合わせ、適当に相槌をうつこと。我ながら良い商売を見つけたもんだ。
先程の報酬である万札を眺めながら、頭の悪い客を嘲笑っていると、部屋にドアの開く音が響いた。アタシはすぐに万札をポケットに突っ込み、凄腕占い師の優しいおばあさんへと変身する。
「お邪魔します」
「いらっしゃい、よく来ましたね」
入ってきたのは、常連客のサラリーマンだった。こいつはうまくやれば簡単に大金を落としてくれる、アタシの大きな資金源の一つだ。アタシは胸が踊るような喜びを隠して、一言こう言った。
「あら、今日のあなた、いいオーラが出てるわね」
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