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案の定、サラリーマンはほっとしたような顔で「本当ですか?」と言う。
「ええ。あなたが初めてここに来たときと比べると、あなたの厄は大分落ちたみたいよ。」
「そうですか。いやあ、先生のおかげです。ありがとうございます」
サラリーマンは嬉しそうにそう言う。身に覚えのないことで感謝される違和感には、もう慣れた。
「先生、僕、この調子でもっと人生を変えていきたいです。どうすればいいですか」
アタシはサラリーマンに向かって、にっこりと微笑み「良いでしょう」と言った。
ポケットに手を入れて万札を握ると、それを紙くずのようにくしゃくしゃにする。そして、机の影に隠れて、何かを探す素振りをしたあと、ポケットからその万札を男に差し出した。
不思議そうな顔をするサラリーマンに、アタシは堂々と説明を始めた。
「これは長い間、この部屋の引き出しに保存されていた一万円札よ。もちろん、ただのお金じゃないわ。長い時間をかけて、この部屋の霊力を取り込んだ、曰く付きのアイテムなの」
「なるほど、それを持っていることで、霊力を受けることが出来て……」
「そう。厄を落としてくれるの。この万札があなたの代わりに厄を受け取り、代わりにこれが持っている霊力をあなたが受け取る」
「すると、その力で僕は幸運になる!」
サラリーマンは子どものように喜ぶ。毎回意味不明なストーリーを作るのは面倒だが、今回は半分はこいつが作ってくれたようなものだ。この世にはここまでの馬鹿も居るのだ。
ここまで来たら、もうこっちのもんだ。アタシは大きく息を吸って、一言言った。
「この一万円札、十万でどう?」
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