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3 サラリーマンの金
霊力で厄を落とす……。僕はその台詞を、何度も頭の中で反芻した。やはり、あの人を信頼したのは正解だったのだ。実際、既に気分が晴れ晴れとしてきた。間違いなく、この一万円札の効果だ。
僕は電車に揺られながら、丁寧に財布にしまった曰く付きアイテムを、まじまじと見つめる。これは家宝にしよう。きっと家内も喜ぶだろう。
電車が最寄り駅に着いたので、僕は早足になって電車を降り、駅を出て、我が家へと続く道を進む。いつもは短く感じる帰路も、今日はやけに長く感じた。
空には、雲に隠れた満月が、こちらをじっと見つめるように浮かんでいた。
玄関を開けて家に帰った時には、僕は鼻歌を歌っていた。早口にただいまと言ってリビングに入る。
そこでは妻が一人、ソファーに腰掛けてテレビを見ていた。良くわからないドラマがやっているようだが、そんなことはどうでもいい。
「おい、おかえりくらい言ってくれたらどうだ?」
「うん」
妻は面倒臭そうに一言返事をする。
「まあ、今日はそれよりも、見せたいものがあるんだ」
僕がそう言うと、妻は期待と不安の入り混じった目で、今日初めて僕の方を見た。僕は笑顔で財布を取り出すと、例の一万円札を掲げて見せる。
「ただのお金じゃないぞ、これは……」
顔をしかめる妻に、僕はあの占いの先生から聞いた説明を、そのまま事細かに聞かせてやった。
「どうだ?凄いだろ。十万払う価値は十分にある!」
僕は改めて妻の方を見て言う。それと、妻の拳が僕の顔を打つのとは、ほとんど同時だった。
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