3 サラリーマンの金

2/2

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 僕は一通り妻の説教を聞き終えると、逃げるようにリビングから出て行った。どうしてこの力の凄さが分からないのだろうか。疑問と怒りが、胸の奥から沸き起こる。  階段を上って書斎に入ると、僕は財布から一万円札を取り出した。妻には捨てろと言われたが、そんなことは言語道断である。  僕はファイルに一万円札を丁寧に入れると、鍵付きの引き出しの中にしまい込んだ。朝出勤するときに財布に入れ、帰ってすぐここに戻す。少し面倒だが、妻に勝手に捨てられる心配はない。  僕は鍵を本棚の本の隙間に隠すと、そそくさと飯を食い、風呂に入った。寝室へ向かう途中、寝室に立ち寄った。先程の引き出しをもう一度開け、ファイルに入れた一万円札を見る。  こいつが失くなるようなことだけは、絶対に防がなければならない。僕は書斎の扉を振り返ったあと、静かに引き出しを閉めた。  
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加