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4 フリーターの金
俺はポケットから玄関の鍵を取り出すと、鍵穴にそれを差し込んだ。がちゃんという音が、寝静まった夜の静寂に水を差す。ちらりと腕時計を見ると、もう十二時を回っているようだった。
玄関を開けて家に入ると、リビングから微かにテレビの音が聞こえた。こんな時間にテレビを見るのは、母さんだけだ。俺は一応「ただいま」と言って、そそくさと二階の自室へと戻ることにした。
今日はバイトから帰る途中に偶然友達に会い、そのままそいつと数時間遊び呆けてしまった。こういうときの母さんは鬱陶しいので、顔を合わせるべきではない。
俺は自室に入ると、スマホを取り出す。このまま朝まで、これで時間を潰せるだろう。
ところがしばらくすると、さっきの友達から連絡が来た。どうやら、この調子で明日も遊びまくるらしい。それで、お前も来いというお誘いだった。
明日もまた楽しい日になりそうだ。俺は思わず笑みを浮かべた。明日のバイトは適当な理由で休んでおけばいい。いっそ一日中遊び続けられるかもしれない。
これを逃す手はない。俺は迷わず誘いに乗ろうとした。だが、返信を送る寸前、俺は重要なことに気が付いた。
鞄の奥を探り、ぼろぼろの財布を取り出す。恐る恐る中身を覗くと、案の定スッカラカンである。
その惨状を目にすると同時に、頭の中にいくつもの考えがよぎった。友達の誘いは諦めるしかないのだろうか。いや、母さんに金をせびればまだ何とかなる。ただその場合、大きな修羅場を乗り越えなければいけない。
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