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5 盗人の金
「それでさ、俺も行きたいと思ってたんだけど、金がもう無いわけ」
「マジかー、じゃあそれからどうした?」
「親父の書斎に鍵付きの引き出しがあるわけ。それで俺、鍵の隠し場所知ってんだよな。そんでそん中に一万入ってたってわけ」
「マジかー!親父かわいそー」
「何言ってんだよ。俺みたいな息子を持ったのが悪いんだよ」
「ははっ、確かに」
ショッピングモールのフードコートで、男二人が大声で談笑している。一人は椅子にあぐらをかいて、もう一人は隣の席に足が届くくらい大きく足を組んでいる。
その大きな体は子どものようにせわしなく動き、その声は、あいつらの半径五メートル以上に渡って響く。机の上は、机が見えなくなるくらい、もので溢れかえる。
俺はカウンター席に座りながら、彼らの方にちらちらと目を向けていた。彼らの一挙一動全てが、不快感を掻き立ててくれる。見たところ俺と同じ二十代のようだが、同年代とは思えないほど行動が幼稚である。
「じゃあ、俺ちょっと便所行ってくる」
一万を盗んだ方の男が立ち上がりそう言うと、ポケットに手を入れて、大きく肩を揺らしながら、トイレの方へ歩いていった。
残された男は一人黙々とスマホ弄りに熱中する。散らかした机の上には、席を立った男のものと見られる、ぼろぼろの財布が放ったらかしにしてあった。
俺はそのベストコンディションを確認すると、ひそかにほくそ笑んだ。
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