1 女子大生の金

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1 女子大生の金

 私はスマホ弄りをやめると、駅前のベンチから立ち上がった。少し遊んだだけのつもりが、空はすっかり暗くなってしまっている。  明日こそ朝から講義に出ないといけない。本当はもっと遊びたいんだけど、今日のところは我慢しておこう。  何年か前は、大学生になったら毎日好き勝手出来ると思ってたのにな、と心の中で呟く。適当に遊んで、ちょこっと講義に出てを繰り返すだけの、単調な日々。それは思ってたよりもずっと、退屈でつまらないものだった。  こんな調子で、自分はどうなってしまうのだろう。私は常に、そんな漠然とした不安に駆られていた。  でも、それは先月までの話だ。私はポケットに手を入れて、折りたたんだ一万円札の存在を確かめた。  私が進む道は、少しずつ小さなものになっていく。人通りは少なく、眩い街の光もたどり着けないような路地裏に、目的地はあった。  しばらく進むと、カラフルな光が私を歓迎してくれた。それは、『占いの巣』という看板が発する光だった。  私は看板の側にあるドアをゆっくりと開ける。そこは、明かりは付いているものの、不気味な薄暗さのある部屋である。私は思わず、そんな非日常的な空間に、ぞくぞくしてしまう。 「いらっしゃい」  部屋の奥にかけてあるカーテンから、優しい声がする。私は笑顔で、声のする方へと向かった。
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