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妙ちゃんの指さす方に釣られるように振り返る。目に飛び込んだ鮮やかな色彩。私はあまりの色に息を呑む。それが何を意味しているのかは抽象画過ぎて分からない。それでもその色が描く曲線から目が離せない。ばんっと訴える色味が目の奥を刺激した。私はこの世界を知っているって思った。
「ほら、プリン愛」
「え? プリン愛?」
妙ちゃんの指が題名をさす。
”『プリン愛』 森 祐一”
妙ちゃんが言いたいことはわかる。私もびっくりして目を丸くした。
同じなのだ。同じ絵じゃなくて、同じ絵を真似したのじゃなく、同じなのだ。
昨日の夜、妙ちゃんと一緒に何を食べたいか絵を描きながら、二人で妙ちゃんの家で飲んでいた。妙ちゃんは、美味しそうな秋刀魚の絵を描く。美大生のクオリティはなかなかで、飲んでいるとは言えマジな秋刀魚がローテーブルの上で泳いでいた。私はその秋刀魚に対抗しようと、プリンを描いた。スプーンに乗ったプリンをリアルに表現する。私はそれをプリン愛だと名付けて、口に入れた。妙ちゃんは笑いながら、自分の秋刀魚を本気で食べだし、二人はへべれけの思い出として、それぞれの絵をお腹におさめた。
その『プリン愛』が被ったのだ。
いや、比べ物にならないぐらいこのプリン愛は芸術だったけども。私は彼の描いたプリン愛を眺めながら、自分が描いたプリン愛なんて私のお腹に入って丁度良かったと思った。
「すっごいね」
「うん、すっごい」
私と妙ちゃんは、言葉を失くし、森 祐一の絵の前で、彼の生み出した色彩にやられた。妙ちゃんに言わなかったけど、その時不思議な気持ちに駆られていた。私は、この人を知っているような。根底にあるものが共鳴するような、懐かしい想いになっていた。
私は、この人を知っている。
これが、森 祐一との出会いだった。
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