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0 光
――ふと、冷たい風が首筋を撫でた。
「あっ……」
山羊の毛織りの首巻きが、強風に煽られて、白く霞む空を舞い上がった。
雪蘭の伸ばした指先が、わずかに布の端を掠める。褪せて灰黄色になった首巻きは、雪蘭を嘲笑うように風と踊り、深い琥珀の麦畑を飛び越してゆく。
「ああ、もう――」
雪蘭は林を振り返り、人を呼ぼうとしたが、その視界の端で、首巻きが枯れ木に引っかかるのが見えた。
春を待つ麦畑の向こう、藁ぶき屋根をかぶる民家のとなりで、数本の枯れ木が枝を伸ばしている。そのうちの一木の枝に、黄灰の首巻きが体を預けていた。
木の幹は、雪蘭の手が回りきらないほどには太く、枝の先は雪蘭の手が届かないほどには高い。首巻きは、放っておけば今にも風に吹かれて飛んでゆきそうだった。
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