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「何か言い残すことは無いか?古の大魔女」
虐殺王であり残虐王が偉そうに高見で見物しながら、私に告げた。
(はっ、言い残すこと?)
舌を刈っておいてよく言えたものだ。
(私との約束だけでなく、よもや、それさえも忘れたのか?)
普通は出血多量で死ぬが、それだけでは満足できなかったのか、王は私の舌に焼き鏝を当てさせた。焼き付いた肉は出血が止まり、私の一命は辛うじて繋げられた。それが昨夜のこと。さんざ拷問を受け、もう私は既に虫の息。
(ああ。この魔法……これだけは使いたくなかった)
本当に、本当にこれしかないのか?と、何度も、何度も、自問自答したが、生き抜くために否、正すために選べる魔法はこれだけだった。
「殺せ」
淡々と命じる声に身体が戦慄く。必死の抵抗虚しく私の頭が無理やり下げさせられた。執行人に頸椎を曝した私の首は、ごとりと命の重さを確かに示して地を転がる。そしてこれで用は済んだと、憐れにもあっさりと見捨てられた。
「この瞬間に魔女の時代は終わりを告げた。これ以降の魔女狩りは禁忌とする。反する者は、余の判断を愚弄する者と見なし、厳しく処罰する」
本来ならば、王自身に言わせたかった台詞。
無慈悲に罪なき同胞が狩られ続ける時代に終止符を打つために、『大魔女』と疑われたこの身を引き換えに差し出した。けれど王は約束を反故して魔女の村を襲った。魔女とは名ばかりの信仰心篤い民。ただそれだけだと説くのに、王は信じなかった。その末路が今だった。
けれど、古の魔女などはいないが、魔法はあったのだ。
王の御霊と私の御霊を入れ替える。転移魔法。遥か東の国では幽体離脱ともいうとか。それの応用版だろう。呪いの言葉など要らない。古の、今や忘れ去られた魔法だった。
(よもや、最も忌まわしい者の身体に入ることになろうとはな……)
後に人は語り継ぐことになる。
やはり『大魔女』は王に呪いを掛けていたのだ。でなければ、かつてのあの愚王が、人が変わったように賢王になる筈が無いと。
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