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「みんな!!聞きなさい!!先生の前に集まって!!早く!!静かに!!集まって!!早く!!お願い!!黙りなさい!!家に帰るのよ!!そのための方法を今から説明するから!!うるさい!!早く!!集まって!!黙って!!」 大人しく優しい先生ということで、時には生徒に甘く見られ教室内の収集がつかないこともあった彼女の、初めて聞いた切迫した怒鳴り声に、始めのうちはパニックの収まらぬ子供たちも多かったが、やがて一人二人と静まり、教壇の前に歩み寄り、しゃくり上げながらも涙を堪えて立ち、彼女の顔をじっと見詰め始め、数分後には教室内は静まり返り、聞こえてくるのは鳴り止まぬ外の轟音のみとなっていた。 「ありがとう、みんないい子よ。 いい? 泣いて騒いでずっとここにいても、いつかはやられる。 ここは三階だし、学校が完全に崩れちゃったらきっと私たちも一緒に潰れて死んじゃう。 だから、外もあんな調子だけど、ここにいるよりはマシだから、なんとか外に出て、避難訓練のことはもう忘れていいから、それぞれとにかく自分のことだけ考えて、自分の家に全力で走りなさい。 わかった?」 無言で頷く子供たちだったが、最前列に立つ一人の男子が、でも、と口を開く。 「でも、ここ三階だよ。 廊下は火と煙で階段も見えなかったよ。 どうやって外に出るの?」 その言葉に再びざわつき始める子供たち、そして締め切られた二つの扉からも忍び込み広がっていく煙と熱気がさらにその声を大きくしようとするのを、 「カーテンを使って窓から出ます!!」 という凛とした声が制した。 通常の教室よりも広く窓の多い工作室は、当然カーテンの数も多い。 それらを繋ぎ合わせれば地上にまで届きそうだった。 大急ぎで机を窓際に寄せて、先生と共に背の高い生徒数名が、半ば引きちぎるようにレールからカーテンをはずして集め、その角を結び合わせていく。 が、強固に繋ぐ程に結び目は大きく梯は短くなっていく。 試しに一度窓から外へと垂らしてみたが、一人ずつをカーテンの端にくくりつけて降ろしていく予定であるため、その長さも考慮するとまだ一階分、二メートル半が不足していた。 不安げに振り返る生徒に、想定外のことに一瞬何もかもを諦めかけた自分を奮い立たせ、教室内を見回した先生は、使用していなかった窓際の端の作業台の上に積まれたマフラーに目が留まる。 空調の故障により真冬の寒さを免れなくなった工作室で、特別に防寒具の着用を勧め教室から生徒たちが上着や手袋と共に持ってきたのだが、作業の邪魔になるためにはずさせて一箇所にまとめておいたのだ。 ここに全部で何本あるのか、人一人を支えるのにマフラー何本が必要なのか、子供用のマフラー一本の長さは。 駆け寄って手に取り計算するが、正確な答えなど導いている余裕は無いと、とにかく三本ずつ束ねて結び連ねていく。 そして完成した文字通りの命綱に、体の小さな生徒から順に結び付け、生徒は震えながらも必死に布を握り締め、奇跡的に地上へと辿り着きなんとかその固い結び目をほどくと教室を見上げ、 「さようなら!!」 大声で叫んで校門へと駆け出していった。
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