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大粒の雪の降る、とても寒い日の午後だった。 街中で火の手が上がり、警報音が響き渡り、その小学校の校内でも非常ベルと子供たちの悲鳴、先生たちの誘導の叫び声が飛び交っていた。 雲の上に姿を隠しながらも低いエンジン音を轟かせる航空機から放たれ、雪と共に降り注ぐ砲弾のうちの、一体幾つが校舎に着弾したのかわからないが、コンクリート三階建ての屋上は既に半分近くが突き破られ、瓦礫に埋もれた教室を露呈させていた。 一階と二階にいた生徒と職員は、その突然の災厄の中でもかろうじて校舎の外へと逃れることができたが、日常行われている避難訓練は火災や地震を想定したものであり、校庭に避難して整列するだけで命を繋ぐことができるという思惑だったが、逃げた先の校庭にも既に蜂の巣のようにクレーター群が形成されさらに数を増やし続けているこの状況で、彼らは果たして己の命を救い得ただろうか。 一方、三階にいた者たちはまた行方が異なっていた。 屋上が崩れ落ち屋根を失った音楽室で歌っていた者たちは、その歌が自分たちの葬送曲になるなどとは思ってもみなかったであろう。 天井から降り注ぐ瓦礫は激しくピアノの鍵盤を打ち付け叩き鳴らし、その音は呆然と仰向けに見上げ眺める曇天の彼方まで届き、彼らの魂を運んで行ったに違いない。 取り残されたのは、工作室で奇しくも「空」をテーマに水彩画を描いていた、三年二組の生徒たちと図画工作の先生だった。 鳴り止まぬ爆音、立っていられぬ程の振動、他の教室から響いてくる複数の絶叫、覗いた廊下の右手左手から迫り来る炎。 正気を保っている子供など一人もいなかった。 それはこのような異常で非常な事態への直面に唯一の大人である先生とて同じことであったが、子供たちを落ち着かせて避難させて守らねば、という使命感のみが、彼女の目から涙をこぼさせぬように、彼女の口から命乞いや弱音を叫ばせぬように、彼女の足から自分だけ助かろうという遁走を奪うように、かろうじて意識を繋ぎ留めていた。
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