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映画が終わりまた明るくなって講義の続きが始まった。結局映画の内容はあんまり頭に入ってこなかったけどレポートは何とかなるだろ。
チャイムが鳴って授業が終わると、蒼真がすぐ立ち上がった。
「要、俺次の授業は体育だから先行くな。後でカフェテリアの席取っといてくれるか」
「おけ」
「……上着の前、閉めとけよ」
「へいへい」
気にしすぎだろ。閉めたらなんか暑そうだ。
僕の次の授業は──何と休講になっていた。そう言えば朝は掲示板を見る余裕無かった。面倒くさいけどレポートでも書くか。そう思って図書館に向かう。
その途中、グラウンドの前を通ると、体育の授業がはじまるところでバラバラと男子が集まっている。人前で着替えるのが苦痛で僕は体育を選択してないけど……あ、蒼真だ。
遠目でもカッコイイからすぐわかる。背も高いし足も長いし体も締まってるしバランスも良い。僕みたいにナヨッとしたところはみじんもないけど筋肉ゴリゴリでもない。
隣の男が何かふざけて蒼真に抱きついた。
チッ、何だアイツ!
蒼真が男を引き剥がす。
また男が抱きつこうとした時、教師から号令がかかってグラウンドの隅に移動していった。
……蒼真は高校のときもモテてたからな。女にも──男にも。
なんとなくモヤモヤした気持ちで図書館に向かった──つもりだった。
方向音痴の僕は気がつくと〈クラブ棟エリア〉の中庭に迷い込んでいた。
ムダにだだっ広いキャンパスで、適当に近道したつもりがヘンな所に来てしまった。
そこは、部室として使われている古い二階建ての建物がコの字形に建っていて、陽光も当たらず薄暗い。
壁やドアはペンキで汚れ、中庭には壊れた椅子やオブジェのようなプラスチック、ベニヤ板などわけのわからない物が散らかっていて──去年の学際の名残か──退廃的なムードが漂っている。無関係の新入生が気楽に立ち入れるところではない。
引き返そうとしたとき───
「要?」
その声に振り向くと、知らない男が一人、僕をジッと見つめていた。
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