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「ハア、ハア、間に合った~」
あせって視聴覚室に飛び込むと階段教室の真ん中へんに蒼真を見つけ、なだれ込むように隣に座った。
「おう、要、寝坊か?」
「ふう……まあ、そんなとこ」
乳首を見てて遅刻しそうになった、なんて言えないからな。
「要……お前、そのTシャツの下、ランニング一枚だろ」
「え? あいっけね」
うっかりしてた。いつもは乳首対策として下着を二枚着るとか上着を着るようにしているのに、今日は慌ててどっちも忘れた。
「目立つ?」
僕はよく見えるように蒼真の方に胸を突き出した。
「ぅ……ん、目立ってる……」
そう言うと蒼真は突然上着を脱ぎ、僕に押し付けた。
「これ着て」
「え? いいよ-」
「今暑いんだよ、いいから着ろよ」
そういや蒼真の顔がちょっと赤い気がする。暑いんなら借りとくか。
簡単な講義の後、教室が真っ暗になって映画が始まった。30年ぐらい前の作品で、人種差別がテーマのようだ。
どうも映画に集中出来ない。イマイチ面白くないせいもあるけど……。
……わかってる、認めたくないけど、蒼真の服を着ているせいだ。
だって直前まで蒼真が着てたから、ほのかに体温が残ってあったかくって、優しく蒼真に包まれてるみたいで、ちょっと生々しくて……。
今なら暗いから誰にも見られない……そーっと服の匂いをかぐ。
うん、いつもの蒼真の匂いだ。いい匂い……なんか好きなんだよな……。
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