ニブレス、もらいました

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ニブレス、もらいました

 朝のシャワーを済ませた僕は、いつものように鏡に映った上半身を見て深いため息をついた。 「本気で整形手術、しようかな……」  え?  けっこうカワイイ顔なのにって?  いや違う違う、悩んでいるのは顔じゃなくて、この超デッカイ、恥ずかしい乳首のこと!  だって、縦、横1センチ越え。高さに至ってはもっとありそうで───いやちゃんとに測ったわけじゃないけど、大体そんな感じだ。  特に夏がヤバくて、うっかりTシャツ一枚だけで外を歩くと、必ずと言っていいぼどすれ違う人に胸をチラ見される。  女性ならいいと思う。エロいと感じる男もいるだろうしブラで誤魔化せる。でも男でこれはアウトだよな……。  もちろん試してみたよ、乳首に()る〈ニブレス〉ってヤツ。でも───駄目だった。  そもそも僕の乳首がデカすぎるせいで、ニブレスがすぐ剥がれてしまう。    それで、乳首を小さくする方法を調べてみると、〈乳頭(にゅうとう)縮小術(しゅくしょうじゅつ)〉という整形手術があるらしい。受けるのはほとんどが女性らしいが男だってできるはずだ──やらないけど。  僕は中高一貫の男子校出身だったけど、このデカ乳首のせいでずいぶんイヤな思いをした。体育とかで着替えるとき何度もからかわれたし、プールの授業では『キモ』って言われたり逆にジッと見られたり、下手すりゃ触られたり……ほんとストレスだった。  一番イヤな記憶は高一のとき。プールの授業で、五十嵐(いがらし)っていう、超デカい体格のやつに、超ぶっとい指で(つね)られたことがある。あの時の痛みは忘れられない。もうホント痛くて、プールサイドでうずくまって悶絶したっけ。  五十嵐は『あ、悪い、ちょっと力入っちゃって──見せてみ』なんて言ったけどニヤニヤして全然誠意が感じられなくて、胸を隠してたら腕を掴まれてゾッとした  でもその時、なぜか同じクラスの(かのう)蒼真(そうま)が、五十嵐をやっつけてくれたんだ。  蒼真は製薬会社の社長の次男で、育ちの良さがにじみ出ているイケメン。女にはヘタレだってウワサもあったが勉強できるし運動神経もいい。  いつも取り巻きみたいなのがいて、その頃僕とはあまり接点が無かったんだけど、プールで五十嵐をすっ飛ばして、『大丈夫か』って気づかってくれて───きっと正義感も強かったんだろう。  それ以来、蒼真とはけっこう仲良くなって今じゃ大親友。しかも偶然、大学まで同じで───  ん? あれ……乳首が……何だか前よりデカくなったような……まさか成長した?……いや、いやこれはあれだ、数えると増えるホクロみたいなもんで気のせいだ、絶対っ! 「ちょーっと、(かなめ)、朝ごはんは? 時間大丈夫なのー」  ドアの外で母さんの間延びした声が響く。 「大丈夫~」  と言ったが時計を見たら全然大丈夫じゃない! 今日の1限目は〈映画論〉。映画を見てレポートを書く授業だから遅刻すると教室に入れてもらえない。ちっ、今日は朝飯抜きだ。  僕は頭をガシガシ拭くと急いで大学に行く準備をした。
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