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 数日後、私は由貴と大学内の学食で話していた。  お互いの近況を話していると「そういえば」と由貴が切り出した。 「志乃のゼミにいる田中くんって卒業大丈夫なの?」  突然の質問だった。 「彼、一般教養の講義受けてるよね? 私の後輩が『スーツで受けてる人がいるんですよ』って言うから見てみたら田中くんだった」  一般教養は、だいたいの学生は一、二年生のうちに単位を取る。遅くても三年で取り終えてしまう。四年で受けている学生は、ほぼいない。 「まだ卒業単位の目途立ってないとかなのかな」 「さぁ……」  よくよく考えれば、見えない未来を語ることはあっても現実の単位の話などしたことはなかった。 「志乃と田中くんって似てるかなーと思ってたけど、やっぱ違うよね」  由貴が言った。その言葉の真意を測りかねた。 「前は似てた気もするけど、最近の志乃は変わったかな」 「変わった?」 「うん。なんていうか……穏やかになった。一年の時とかはトゲトゲしてた」  確かに、周囲と距離を取っていた時期はあった。由貴はその辺を「トゲトゲ」に感じたのかもしれない。 「最近は、キレイになったよね」 「何それ? 何も出ないよ?」 「えー、経営財務のレポート手伝ってほしいのに」 「そっちか!」  私が笑うと由貴も笑った。 「でも、キレイになったって思うのは本当だよ?」 「はいはい」  軽く交わしながら、私は康之が卒業単位が溜まっていないという疑惑に頭を悩ませていた。 +++  その後に、康之に由貴から聞いた件を問いただしてみた。彼は苦虫を潰したような顔をした。  「仕方ないから話すけど」と言って彼は説明を始めた。  由貴の想像どおり、まだ卒業に必要な単位が足りていない。足りないどころか、まだ卒業に必要なうちの半分強しか取得できていないのだと言う。  私は溜め息をついた。 「卒業できなきゃ、『もっといい会社』だとか『大学院行く』か言ってる場合じゃないよ……」 「そんなことはわかっているよ。だからこんなに頑張っているんだ。オレ、こんなに勉強に集中するなんてそんなにないよ」  一年の頃から計画的に単位を取っていれば、そんな集中なんていらない、とは言わなかった。  彼の輝く瞳を見ていると、私の言葉は彼には届かないような気がした。  
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