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4.
由貴がゼミ棟で倒れていた、と聞いたのはその翌日のことだった。
頭から血を流して倒れていたところを通りかかった学生に発見されたらしい。
幸い、命に別状はないらしいが、しばらく入院することになった。
私は由貴が好きなお店のマカロンを買って、お見舞いに行った。病室に入ると、私よりもマカロンの入った紙袋を由貴は見ていた。
「あー、それって剣坂のマカロン!?」
頭にぐるぐると包帯を巻いていることを除けば、いつもの由貴だった。その様子に安堵し、そして多少、気を遣って何があったかを聞いてみた。
「ちゃんと覚えてないんだけどさ、階段で誰かに押された気がするんだよね……」
「押された?」
「うん。ドンって。私、ロングブーツだったから、バランス崩れたらもうどうしようもなくて……。あの階段、監視カメラもないらしくてね、確かめるのは難しいって」
平成どころか、昭和の時代から建つゼミ棟だ。監視カメラを付けるべきだという話は聞いたことがあった。
話し相手が来たとばかりに、おしゃべりを続ける由貴に相槌を打ちながら、私は考えたくないことを考えていた。
+++
病室を後にし、アパートのある駅で電車を降りた。まだ夕方前の時刻だがひどく薄暗かった。どんよりとした雲から雪が降っていた。アスファルトにも薄っすらと積もっていた。
冷えるはずだ、と思いながら、私はアパートまでの道を歩いた。
三階へと続く階段を登りながら、白い息を吐く。積もらないといいな、と前方を見上げた時だった。
階段を登った先に、人影が見えた。
「おかえり」
そう言った彼の瞳は、いつものように前髪で半分隠れていたが輝いているように見えた。
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