4人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
この世でもっとも古くて陳腐なコントをはじめよう。
いいかい、よくお聞き。
これから話すことを。
決してしてはならない、ということをするのが人間だ。
だから、今から言うことを、おまえが守れなかったとしても、それはそれで構わない。なんだ。「『フリ』みたいだ」というのは。今は黙って聞いていなさい。
いいかい、よくお聞き。
何かが破壊されるとき、道がひらく。それは命でなくてもかまわないが、命が破壊されるときにひらかれる道がもっとも大きい。
わたしはコントが好きだ。あらゆる節目で、それをコントにしてきた。
コントはかつて「儀式」と言われていた。
日常にひそむ名のつけられぬものを透明な箱に入れ、切り込みを入れてはじけさせて天に飛ばす行為だ。時としてそれは呪いを解く力となる。
さあ、いいかい。いにしえのコントをする時が来た。
わたしはそれを、十七のときに決めてから、誰にも言わずネタをあたためてきた。誰と演じるかわからなかったが、気にしたことはなかった。何せ、命は日々生まれる。今はないものも、時を刻むごと山のように生まれると知っていたからだ。
おまえは新しい命。
けれどその命は呪いによって老いはじめている。
ここに、わたしの命がある。もうすぐ破壊される命だ。
いいかい。決して言ってはならないよ。この力を必要としなくなるまでは。
おまえにかけられた呪いは強い。その呪いを、おまえだけは解くことができない。おまえに善きこころがある限り、おまえだけがその呪いを解くことができない。その呪いを解くためには残酷さが必要だし、その残酷さを身に付けたとたんに、それが新たな呪いになる。だからおまえが今日まで何もできずに来たことは、恥ずべきことではない。
さあ、道がひらく。向こうから、道を通って、大きな力が流れてくる。
ああ、泣いているな。いいことだ。このコントは、おまえがわたしを好いてくれていなければ、成り立たない。さあ、陳腐なコントをつづけよう。わかるだろう? 向こうから、力が流れ込んでくる………
泣いていなさい。おまえに与えられた役に台詞はない。今は黙っていなさい。道がひらいているあいだ、何も言ってはならない。何も。
さあ、これがわたしのさいごの台詞だ。
わたしはおまえの命を祝う
今から往く 時の無い処から
おまえがおまえを信じられなくなるほどに
おまえはわたしを信じざるを得ない
わたしはおまえの命を祝う
おまえの中にある「でも」と「なぜ」を、わたしは許さない。何も言うな。黙っていなさい。わたしによって許されなかった言葉は、もう二度と許されることはない。
うんざりするほど積み重ねてきたであろうおまえの言葉を、わたしが許すことはない。おまえの中の呪い。おまえだけが逃れられなかった、おまえの言葉。
何も言ってはならない。お前の中から出ては返ってくるその言葉を、呑みこみなさい。わたしの祝福がそれを食らいつくすときまで、呑みこんでいなさい。
おまえが苦しいのは、おまえが善きこころを持っているからだ。そんなおまえを、わたしはずっと祝ってきた。それでもその呪いには勝てなかった。
泣いていなさい。おまえが泣けば泣くほど、このコントはそれらしいものになる。
ああ、なんて陳腐なんだろう。
それだけ多くの人間が演じてきた、証のようじゃないか。
最初のコメントを投稿しよう!