この世でもっとも古くて陳腐なコントをはじめよう。

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この世でもっとも古くて陳腐なコントをはじめよう。

 いいかい、よくお聞き。  これから話すことを。  決してしてはならない、ということをするのが人間だ。  だから、今から言うことを、おまえが守れなかったとしても、それはそれで構わない。なんだ。「『フリ』みたいだ」というのは。今は黙って聞いていなさい。  いいかい、よくお聞き。  何かが破壊されるとき、道がひらく。それは命でなくてもかまわないが、命が破壊されるときにひらかれる道がもっとも大きい。  わたしはコントが好きだ。あらゆる節目で、それをコントにしてきた。  コントはかつて「儀式」と言われていた。  日常にひそむ名のつけられぬものを透明な箱に入れ、切り込みを入れてはじけさせて天に飛ばす行為だ。時としてそれは呪いを解く力となる。  さあ、いいかい。いにしえのコントをする時が来た。  わたしはそれを、十七のときに決めてから、誰にも言わずネタをあたためてきた。誰と演じるかわからなかったが、気にしたことはなかった。何せ、命は日々生まれる。今はないものも、時を刻むごと山のように生まれると知っていたからだ。  おまえは新しい命。  けれどその命は呪いによって老いはじめている。  ここに、わたしの命がある。もうすぐ破壊される命だ。  いいかい。決して言ってはならないよ。この力を必要としなくなるまでは。  おまえにかけられた呪いは強い。その呪いを、おまえだけは解くことができない。おまえに善きこころがある限り、おまえだけがその呪いを解くことができない。その呪いを解くためには残酷さが必要だし、その残酷さを身に付けたとたんに、それが新たな呪いになる。だからおまえが今日まで何もできずに来たことは、恥ずべきことではない。  さあ、道がひらく。向こうから、道を通って、大きな力が流れてくる。  ああ、泣いているな。いいことだ。このコントは、おまえがわたしを好いてくれていなければ、成り立たない。さあ、陳腐なコントをつづけよう。わかるだろう? 向こうから、力が流れ込んでくる………  泣いていなさい。おまえに与えられた役に台詞はない。今は黙っていなさい。道がひらいているあいだ、何も言ってはならない。何も。   さあ、これがわたしのさいごの台詞だ。  わたしはおまえの命を祝う  今から往く 時の無い処から  おまえがおまえを信じられなくなるほどに  おまえはわたしを信じざるを得ない  わたしはおまえの命を祝う    おまえの中にある「でも」と「なぜ」を、わたしは許さない。何も言うな。黙っていなさい。わたしによって許されなかった言葉は、もう二度と許されることはない。  うんざりするほど積み重ねてきたであろうおまえの言葉を、わたしが許すことはない。おまえの中の呪い。おまえだけが逃れられなかった、おまえの言葉。  何も言ってはならない。お前の中から出ては返ってくるその言葉を、呑みこみなさい。わたしの祝福がそれを食らいつくすときまで、呑みこんでいなさい。  おまえが苦しいのは、おまえが善きこころを持っているからだ。そんなおまえを、わたしはずっと祝ってきた。それでもその呪いには勝てなかった。  泣いていなさい。おまえが泣けば泣くほど、このコントはそれらしいものになる。  ああ、なんて陳腐なんだろう。  それだけ多くの人間が演じてきた、証のようじゃないか。    
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