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1.平和な1日は
あるアメリカの伝説的ロックスターは言った。
『バンドやってなかったら何してたかって?そりゃ、ヤバいことだよ!!!』
わかりみが深い。
ヤバいことしたいとかじゃなくて。音楽に、バンドに出会ってしまった以上、この興奮がバンドに向かなかったら、たしかにヤバいかもしれん。そう思うくらい好きだ。とくにベース。ベースの音を聞きながら白米3杯くらいイケる。
例えばさ、最近流行りのバンドのSlumberて曲、意味わからんマジでカッコよすぎる。何でこの音の動きになる?打ち込みとのミックスヤバくない?
ああああどうしたらこんなにかっこよくなれんの。俺の場合、一回死んで、もういっかい赤ちゃんからベースやりなおしたらこうなれるか。寝返りより前にスラップ出来るようになったとか逸話欲しいんですけど。
聴こえてくるベースに合わせて、ポケットの中で指を動かす。痴漢と間違われると嫌だから、電車のドアによっかかってるほうの右手だけ。
あ、ここの音浮くとこ好きだ。スライド、ミュート、タップ。
トントン
肩を叩かれた。吊り革に捕まったままヘッドホンをズラして振り向くとオバサンが申し訳なさそうに見上げてる。背負ってたベースの影で見えてなかったごめんなさい。
オバサンて可愛い人は可愛いよね。うちのオカンはあれだけど、ちまちまお買い物してるのとかわりと萌える。彼女はいらんけど将来結婚したら嫁がオバサンになっても愛せるとは思う。
「……お兄さん、音、漏れてる。」
「あ、はい、すんません。」
プレーヤーごと学ランのポケットに突っ込んだ手で、手探りでボリュームを下げた。
うーん。これだとベース聴こえないんだよな。全然歯ごたえない。タピオカだとしたら返品モノよ。ぶよぶよ、スカスカ。
かといってもう一度ボリュームを上げるのは……無理そだな。まだオバサンこっち見てるや。……あれ、駅…過ぎてない!?
俺、赤尾 二郎。通称赤鬼くんは、こうして今日も、盛大に遅刻した。
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