1.平和な1日は

3/4
前へ
/92ページ
次へ
 昼休み。ベランダは寒いけど日が差してポカポカしている。 「俺最近、感動したことあってさ。」 「大丈夫?その話面白い?赤鬼のその入り方で面白い話あったことないけど」 「面白くは、ねぇ。」  去る猿股。こいつはうちのバンドのドラムだ。隣のクラスだけどよく昼にベランダで一緒にいる。 「待って、待って!」 「団子くれる?」  猿股は甘党だ。そして可愛い顔をしてやがる。仕方なくこちらのポテチをやる。猿股が座った。  よーし良い子だ。 「でね。Jr.がさ。Bruno好きって言ってたんだよ音楽番組で。」 「ふんふん?」 「……すごくね?」  …………。 「もうちょっと。もうちょっと説明おねしゃす」 ちなみに、Jr.とはかの有名な男性アイドルグループの名前。Brunoは今年のグラミー賞を総ナメしたR&Bユニットである。 「いや、だってさ。夢とか希望とか言ってるイメージじゃん、Jr.って。」 「止めて赤鬼、お願い。Jr.批判は燃えるから止めて。」 「批判じゃなくてイメージだって。俺別にJr.の"monster"って曲のベースとか好きだし。」 「マジで」 「聴く?」  プレーヤーから流して、ヘッドホンの片方を猿股の耳に当ててやる。 「………かっけぇ。」 「だろぉ!?」  この曲はなかなかすごい。まずコード進行が意味不明なのに完成度高い。そんでグルーヴがあると思う。 「ちょっと待て。何の話してたんだっけ。」  猿股、口にチョコついてるよ。 「Bruno。」 「そうそれ、それの何がすごいの?」 「だからぁ、Jr.の人たちは、アイドルの音楽しか聴かないのかなって思っちゃってたんだよ、俺は。考えても見たらさ、そりゃ芸事で生きてるんだからBrunoとか聴くよね。それでさ、全然違うわけじゃん。」 「何と、何が?」 「BrunoとJr.が。」 「そりゃそうよ!遺伝子レベルで違うでしょ。」 「そう、違うんだよ。違うけど、ちゃんとやってるワケじゃん。普通、あのBrunoのパフォーマンス見たら、俺らの曲ポップ過ぎん!?って思うと思うんだよね。俺らと同い年くらいの盛りたい野郎たちなんだし。でもさ、自分たちに与えられた曲をちゃんと歌って踊って、でちゃんとかっこよくなるワケじゃん。Jr.は。」 「あ、そゆこと。」 「そ。だから感動した。俺は深く反省した。これまでの偏見を。」 「でも俺は次のライブでJr.のコピーやるとか言われたら拒否するよ」  何だそれ。猿股おまえ俺の話聞いてたかこの野郎。 「何でだよ」 「ドラムむずいから」 「はぁ?」 「打ち込みばっかなんだよ。クリック聴くの嫌いなの俺。」 「そんなんお前、俺が合わせるしアレンジすりゃ良いだろ打ち込み無しに。」 「えーやだぁ〜」 「までも、コピーは、しないわな。」 「………ならこの会話しないで?」  ポテチは、あと二枚になっていた。俺は慈悲深い。 「いる?」 「いる。」  あ、こいつ二枚とったクソ。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

142人が本棚に入れています
本棚に追加