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放課後の軽音楽部。今日という今日はベースについて語らせてもらう。異論は無しだ。
そもそもベースの何が良いかと言うと、
「何か悪いこと考えてる?」
猿股がシンバル越しに顔を覗き込んで来た。今脳内で語ってるんだから後にして。
「ベースはな、気づかれにくいんだよ。」
「それがどうかしたのぉ?赤鬼、今更目立ちたいの?」
違う。まったくもって違う。目だちたがりの犬塚みたいなギタボと一緒にすんな。ベースは影で支えるのが美学だ。スネアのチューニングをしている猿股と、マイクスタンドのネジを回している犬塚に、俺は言ってやった。
「つまりだ。ベースなら、気付かれずにエロい気分にさせることが出来る!!!」
猿股と犬塚がピタリと止まった。
そりゃそうだ。こいつら煩悩の塊だもん。
「良いか。とある女に聞いたところ、世の中には都合の良いことに、ベースの音を認識出来ないやつってのがいるらしい。」
わからなくもない。ベース音はめちゃくちゃ低いのが普通で、音はもこもこしてるし、コード進行に沿うようにするから聴こえにくい。逆に、意識しないでも聴こえてきちゃうベース音ってのは若干音が浮いてる。それは曲に馴染んでいないか、かっこよ過ぎて隠しきれないかどっちかだ。どんなに服着ててもAV女優がエロいのと一緒。
聴こえそうで、聴こえない。でも無いとダメ。絶対ダメ。そのギリギリを攻めていく。それがベース。
「ベースって、サバの味噌煮の味噌じゃんか。主役じゃないけどいなきゃダメ的な。」
「赤鬼はサバの座を誰に譲るわけ?」
「サバはボーカル一択だろ。」
犬塚が猿股にツッコむ。
「いやそれは違う。」
「あぁ!?」
猿と犬はモメると面倒いから間に入ってやる。
「あのな。サバの身がギター、一番よく見えるサバの皮がボーカル、骨がドラム、味噌がベース。それで良いじゃんか。」
「生姜は」
「え」
「生姜。」
猿股が不満げに口を尖らせている。やれやれ。
「キーボードだ。さ、話をもとに戻すと」
まだ猿股と犬塚が何かモメているが無視だ。
「例えば、歌詞がエロい曲があったとするじゃん。それ、ライブで歌ったらどうなると思う?」
「普通に盛り上がるだろ。」
「はい、それは犬塚の論理ー!普通は、引きます!」
「そうかぁ?」
「ところが、ベースは。」
ちょっとだけ、右手で弦を弾く。
ブーン
ドーッドッダッ デデデデドッデドッデッ
「「しゅらば!事変!」」
「正解っ!」
そのまま、人気バンド"事変"の曲を弾き続けると、二人が合わせて来た。
「たったたっら〜♪」
犬塚の野太い声でも、歌詞がわからなくても、この曲は十分かっこいい。
結局一番のサビが終わるまで弾ききった。
「いや〜やっぱエロいわ。事変の曲。」
「何かわかったかも、赤鬼が言いたいこと。」
そうでしょうそうでしょう。
「でもさ、この曲は歌詞が一番エロいよね?」
猿が犬に寝返った。
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そんな感じで、赤鬼くんの平和な1日は終わって行った。
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