好きだから

1/5
前へ
/9ページ
次へ

好きだから

学園の不良たちが集う昼休みの屋上で 「総長大好きー!」 と毎日言い続ける平凡な少年。 だが肝心の総長からおざなりにあしらわれシュンと落ち込む姿は、その場にいる者にとって見慣れた光景だ。 不良たちの視線を浴びながら、とぼとぼ屋上の隅っこまで歩く平凡。 小さな身体をさらに小さく丸め、ちんまりと座り昼食用に持参したパンを噛む。 特に気にした風もなく一瞥すると後は放置の総長。 周囲の不良達もそれに倣って、平凡を睨んだり因縁をつけて追い出そうとはしない。 むしろ 「残念だったな平凡」 「また明日も頑張れよー」 といった声援がチラホラあがる程度には友好的だ。 そんな総長と平凡少年を交互に眺め愉快げに笑う、不良チームのNo.2。 誰かが止めたにも構わず平凡に近付き、話しかける。 「毎日かわいそー。あんなつれない総長じゃなくてもういっそ俺と付き合っちゃう?」 「やだ」 「何でー? 俺の彼女になったら今より絶対、すっげ楽しいよ。毎日優しくしてドロドロに甘やかしてあげる。あんな無愛想な総長といるより、何百倍も幸せになれるよ」 美形ならではの甘い笑顔と悩殺ボイス。 間近で迫られ思わず顔を真っ赤にしながらも、決して首を縦に振らない平凡。 眉をへにょりとさせているのは、総長から相手にされない現状(自分の立場)を、男の言葉で客観的に自覚させられたから。 それはともかく。 意外にも自分になびかない相手に、よけい愉快な気分が増すNo.2。 「あは、俺フラれちゃった。ショックー。じゃあこれ慰謝料代わりに貰っとくね」 チュッ、と唇の端に軽く触れるだけのキス。 一瞬の出来事に動きを止めた平凡少年、と周囲の不良たち。 中には「ブハッ!?」と弁当を噴き出す者も数人。 そして、わずかに眉を寄せる総長。 ニヤニヤと総長を見遣るNo.2、もとい副総長。 凝固したまま顔が赤くなったり青くなったりしていた平凡少年だったが、しばらくすると、見る間に瞳が潤み始めた。 「な、なんてことするんですか俺のファーストキス! そ……総長と、したかったのに……。うわぁぁん、もうお婿に行けないよぉぉ!?」 「えー平凡くんがお婿なの? じゃあ総長がお嫁さんなんだ。白無垢姿の総長かぁ……ぷぷっ、うっわ何それ見たい。一生もんのネタじゃん」 .
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

137人が本棚に入れています
本棚に追加