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リビングにて
「酒盛りやってたみたいですね、二人とも」
リビングについてすぐ、逸花が食卓の上に並べられたお皿やコップを見て言った。
「子供を放り出してどこかへいくなんて、あとできっちりお説教しなくちゃ。ね、紗綾さん!」
明るく毒づく逸花とは対照的に、紗綾はどよーんと暗いオーラを背負い、虚空を見つめながら、ぼんやりと答えた。
「そうね……。ジュンさんにとって私って、所詮その程度の存在だったってことよね……」
その台詞が引き金となり、ソファに泣き崩れる紗綾を、三人は必死でなだめる羽目になった。
数十分後。
落ち着いた紗綾に、ジュンが改めて自分が本人であることを伝えた。背中のほくろを見せたり、酒瓶のラベルとネットで調べた情報を見せたり、事の経緯を話したり。あれこれ手を尽くしたものの信じてはもらえず、「そんなファンタジーな出来事、起こるわけないでしょう? で、ジュンさんはどこなの?」と振り出しに戻るのだった。
「だから、僕がジュン……」
「もう、それはいいから。いい子だから、ジュンさんの居場所を教えてちょうだい、ね?」
そんな二人のやりとりを見て、チハルが遠い目をしてぼやいた。
「堂々巡りだな」
チハルの隣で、同じく遠い目をして逸花が言った。
「しょうがないよ。2次元と親和性が深い私ですらにわかに信じがたい話だし……」
それを聞いたチハルは、逸花の顔を見上げて言った。
「まあ、普通はそうだよな。悪いな、スライム。年始早々ゴタゴタに巻き込んで」
「そんな、チハルさんのせいじゃ……」
言って逸花は、自分でも自分の発言に驚いてしまった。
「む、無意識にちみっこをチハルさん扱いをしてしまった……!」
頭を抱える逸花を横目に、チハルは淡々と言った。
「ま、実際本人だしな」と。
「うーん、新手のおれおれ詐欺ぃ」
その場でうずくまる逸花をみて、チハルは解決までは先が長そうだと、一人ため息をついた。
それから一時間後。死屍累々な惨状に、折れたのはジュンだった。
「紗綾ちゃん。
何度言っても理解してくれないのはわかったよ。なら、僕にkissして。そしたら本人だってわか「嫌です」」
紗綾は忽然とした態度で、ジュンの提案を拒否した。
「紗綾ちゃん、モノは試し「嫌です」」
そんな二人のやり取りを遠巻きに見ていた
逸花が言った。
「まろやかに断られてますね、ジュンさんもどき」
「まあ普通はそうなるよな、うん」と、チハルは飽きれながらも頷いている。
「チハルさんもどきはいいの?」
「なにが?」
「今なら逸花ちゃんと、公式でチュー、できますよ?」
それを聞いた瞬間、チハルの顔はみるみる真っ赤に染まり、言葉にならない言葉を連発した。
「ふふっ。なんだか、本当にチハルさんみたいです。いいですよ、面白そうだから、私はお二人のこと、信じます」
「おまっ、信じるって……」
「kiss、しますか?
したら戻るんでしょう?」
「しない。いい。しない」
顔を真っ赤にしながら、じりじりと逸花から離れていく、ミニマムなチハル。
「チハルさん。なんで逃げるんですか」
それに気づいた逸花が、じりじりと二人の距離をつめるべくにじりよっていく。
「くんなよ……」
「kissして魔法を解いてあげますよ?」
「いらねぇ!」
「遠慮せずに、さあ……」
数分後、全力のおいかけっこに発展したのは言うまでもない。
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