初詣に来ました(不純な動機で)

2/7

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
 そんな二人を後ろから見ていた逸花(いつか)は、二人のことを羨ましく思っていた。手を繋ぐことを諦めきれず、隣を歩くチハルにもう一度思いきって声をかけようと視線を向けた、その時。 「チハルさんが、いなーい!」  慌てて周囲を見渡すと、人波にさらわれ流されているチハルの手が視界にはいり、逸花(いつか)は慌ててその後を追った。 「紗綾(さあや)さん、先にいってて下さい! 私、チハルさんを回収してきます!」  前方を歩く二人にそう言うと、逸花(いつか)は人を掻き分け、来た道を戻っていった。前方を歩いていた二人が後ろを振り返る頃には、逸花(いつか)の背中が人混みの中に小さく見えるくらいまでになっていて、とても合流出来そうにない。 「逸花(いつか)ちゃんがあんなに遠くに、引き返さないと……」  慌ててその背中を追いかけようとした紗綾(さあや)だったが、ジュンがそれをひき止めた。 「今引き返すと行き違いになるよ。先に参拝を済ませよう」 「でも……」 「大丈夫だよ、ふたりならきっと合流出来るよ。信じて進もう、ね?」  紗綾(さあや)は不安げに、ジュンの目を見つめた。優しくてあたたかみのあるその眼差しは、紗綾(さあや)が愛してやまない恋人のそれと同じものだった。紗綾(さあや)の瞳が、静かに揺れる。 「……もしかして、本当に……ジュン……さん……なの?」
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加