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検証開始
「言えなかった言葉はどこへ行くと思う?」
「全ての道はローマに通ずると言うよな」
「それは違う」
騒めきの残る放課後の教室で、後ろの席に座る海原言はバッサリとそう言った。
「山峰はほんといっつも適当なことばっかり言うよね」
「これくらいが楽でいいんだよ。てか海原は大事なこと言えたの」
「言えなかったから聞いてるんじゃない」
彼女は机の上に組んだ腕を置き、その上に顎を乗せて拗ねたように顔を背ける。
海原とは小学校からの幼馴染で、お互い歯に衣着せぬ間柄だった。だから僕は彼女に好きな人がいることを知っている。
「さっさとしたらいいのに。相手も待ってるかもよ」
僕は前の席の椅子を向かい合わせにして、後脚だけで揺れながら言った。ぎし、と椅子が音を立てる。
「こういうのはタイミングが大事なの。無闇に突っ込んでも当たって砕けるだけなんだから」
砕けてほしいんだけどな。
そう思ってしまった自分に気付いて内心で笑った。最低だな僕は。
歯に衣着せぬ、とは言っても、僕には彼女に言えないことがひとつだけある。
僕は海原のことが好きだった。
でもその気持ちを伝える前に、僕は彼女の片思いを知ってしまったのだった。
「好きな人がいるから告白したいんだけど勇気が出ない。どうしたらいいんだろ」
そう言われた時の僕はどんな顔でどんなことを言っただろう。
おそらくいつものように何も思っていない風な顔で「勇気の作り方ならジャムおじさんに聞くのが一番だろ」なんて適当なことを言ったんだと思う。
そうすることで、僕は自分に呪いをかけた。この気持ちをもう二度と伝えられなくなる呪い。
……いや、かっこつけすぎか。
僕は逃げたのだ。当たって砕ける勇気がなくて、自分のキャラクターを盾にして逃げ帰ったのだ。
最高の幸福はなくとも、最大の不幸もない"いつも"の日常に。
「まあ砕けた時は教えてくれよ。僕の慰めフレーズを総動員して接着を試みるから」
「砕ける前提で話すんじゃない」
人生どうなるかわかんないじゃん、と海原は口を尖らせた。そんな表情もかわいいなあと思ったが、そんな気持ちはおくびにも出さない。
その代わりに僕は話を戻した。
「じゃあさ、僕が見てくるよ」
「え、どういうこと?」
「さっき言っただろ。どこへ行くと思う? って」
僕は椅子の前脚で、かたんと床を叩いた。
「言えなかった言葉がどこに行くのか、僕が確認してくるよ」
まあ卒業までにはどこに行ったかくらいわかるだろ、と言う僕に怪訝そうな顔を向ける海原。
「そんなもんかなあ……」
そう呟いた後で、あれ、と海原は疑問を唱えた。
「ちょっと待って。山峰に言えなかった言葉なんてあるの?」
きょとんとした表情で彼女はそう尋ねた。
けれど、それについてはあまり触れてほしくなかった僕はまた自分のキャラを盾にする。
「そりゃあるさ。100個くらい」
「また適当なこと言って」
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