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一年目
「言えなかった言葉は今はどこにいるの」
「ちょうど四国を通過したところだ」
「まだ半年しか経ってないのに、結構進んだのね」
「そりゃもう秋だからな。カツオが旬だ。タタキや藁焼きでも食べに行ったんだろ」
「グルメだね」
放課後の教室。
僕と海原はカツオの調理サイトを開いたスマートフォンを机の上に置きながら進捗状況の報告をしていた。
何の因果か、僕と海原は小学校から毎年同じクラスであり、また近くの席になることが多かった。僕たちの仲が深まったのも、僕が深まった仲に恋と名付けたのも、この偶然が要因の一つとして間違いないだろう。
「そんなことよりそっちはどうなんだよ」
「こっちも順調。虎視眈々と獲物の隙を伺ってるの。一瞬の隙も見逃さないわ」
「つまり現状維持ってことか」
「こっちは途中経過とかないのよ。現状維持か結果発表しかないの。慎重にならざるを得ないでしょ?」
「なるほどな。そういえば相手のこと聞いたことなかったけど、どんな人なの」
「お、なになに? 気になるのかい? 私がどんな相手に好意を抱くのか気になるのかい?」
「いや別に。幼馴染が変な男にひっかからないか確認しておこうと思っただけだよ」
「おやおや心配してくれてるの? うわー柄じゃないね」
彼女が意地悪そうに笑いながら言ったそのセリフは、梅雨明け直後で油断した雨の日に言われた言葉と同じものだった。
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