一年目

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*** 「スイッチがあるんだ」  雨音に包まれた教室で、僕は海原にそう言った。 「昔から自分のキャラクターってのをいつも考えてて、スイッチでそれを切り替える。そんな風に生きてきた」  男友達と話す自分。家族と話す自分。教師と話す自分。  その場その場の空気に合わせて自分を変化させるのが得意だったから、それを使い分けて生きてきた。  でも。  これは多分、みんなそうだ。  誰しも大なり小なりそうやって空気を読んで生きている。  好きなものに好きと言って、嫌いなものに嫌いと言いながら笑って生きていられるほど、簡単な世の中じゃないはずだ。  どんな自分が求められている?  そんな風に考えながら生きているうちに、僕は自然とその場に合わせた自分を設定するようになっていた。  そういうことを海原に話した。  柄じゃないね。  その時も彼女はそう言った。 「嵐でも来るのかなあ」  彼女はそんな風に言って窓の外を見た。 「確かにな。柄でもキャラでもないよな。ところで柄とキャラって似てない?」 「うわー唐突に山峰再誕。まあでも確かに音は似てるね。キャラはキャラクターの略だけど」 「じゃあ(ガラ)クタ―でもいけるわけだ」 「急にボロくなったね」  話してしまった後で恥ずかしさに似た気持ちを感じて、そんな適当な会話で凌いだ。  どうして僕はそんな話を海原にしようと思ったのか。  柄でもない、キャラでもない話を。  雨音のシャッターに囲まれて、他の誰にも聞かれない安心感に惑ってしまったのかもしれない。 「でも、なんか嬉しいね」  海原は言った。 「その話をしてくれた山峰は、誰と話す用の山峰でもないんでしょ? じゃあ今は私専用の山峰だ」  言葉通り、彼女はとても嬉しそうに笑った。 「私にしか言えない君の秘密が聞けて、私は嬉しい」
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