二年目

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二年目

「言えなかった言葉は今はどこにいるの」 「ちょうどインドを通過したところだ」 「着々とローマに向かってるね」 「計画性のあるやつだったようだな」 「信頼できる部下タイプだね」  放課後の教室。  僕と海原は一冊の観光情報誌を机の上に広げながら進捗状況の報告をしていた。 「東京タワーと上野動物園は外せない。ここに行かなきゃ東京に行く意味がないだろ」 「でもそれじゃあ竹下通りとサンシャイン水族館はどうする? あ、スカイツリーって普通のお店もいっぱい入ってるんだって。面白そう!」  僕たちは来週に控えた東京修学旅行での班行動での計画を練っていた。  同じ班の他のメンバーは特にこだわりがないらしく「お二人の好きなところに馳せ参じますよ」とのことだったので、海原と二人で行きたい場所をピックアップして絞り込んでいた。 「くそ、なんでこんなに東京は魅力がいっぱいなんだ。あんなに小さいくせに」 「人は見かけに依らないって言うでしょ。小さな土地に夢をいっぱい詰め込んでるんだよ」 「一日でその夢全部見て回ろうなんて考えが甘かったのか」 「はー、夢の大きさ侮ってたね」 「もうしょうがない。こうなったらあみだくじで決めるしか……」  あーでもないこーでもないと言い合って疲れたようで、海原は机に置いていたジンジャーエールをごくごくと飲み、ぷはーっと息を吐いた。 「でもこうして色々計画立ててる時も楽しいんだよね」 「そうか? 僕は悔しい気持ちでいっぱいなんだが」 「楽しいよ。だってさ、ここに書いたどこに行っても間違いなく楽しいんだから。こんな当たりばっかのあみだくじ中々ないよ」  それは確かにそうだ。  想像するだけでも、どこに行っても楽しいことは間違いない。  東京という場所も確かにそうだが。  それは君がいるから、とは勿論言えなかった。 「それは僕に全ての行き先の決定権を委ねるということでいいんだな? じゃあこんなあみだくじ必要ない。ここからは僕が行きたい場所のみでスケジューリングする!」 「ちょっと待った! それとこれとは話が別だー!!」  ジンジャーエールにそれほどの効能があったのか、彼女は先程の疲労感を感じさせないテンションで身を乗り出してきた。  それを見ていた班員の二人が「ほんとにいつも楽しそうだね」「カップルみたい」と微笑みながら言っていたが、僕は聞こえないふりをして、彼女にも聞こえなかったようだ。 「山峰に決定権を与えるとろくなことにならないんだから!」  海原がそう言うのは、きっとこの間の文化祭の出し物のせいだろう。
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