二年目

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***  僕たちは迷っていた。  僕や海原だけじゃない、クラス全員が迷っていた。  二ヶ月先に控えた文化祭での出し物についてだった。  それを『おばけ屋敷』にするか『メイド喫茶』にするかで悩んでいたのだ。  それもちょっと悩んでいたどころではない。既にこの選択で一ヶ月が経とうとしていた。最初はわいわいとやっていたが、他のクラスの準備が着々と進んでいることに焦りを覚え、さすがにそろそろ決めなければという空気になっている。  しかしこの戦いも根深い。  おばけ屋敷は「そんなのありきたりだ」「暗いと何か危険なことが起きても対応しづらい」などの反対意見があり、メイド喫茶は「メイド服なんて恥ずかしい」「紅茶やお菓子などは美味しいものを用意するとお金がかかる」などの反対意見があった。  主に男子が『メイド喫茶』派、女子が『おばけ屋敷』派だ。  両者とも頑固に譲らず、月日が経ってしまったせいでますます譲ってたまるかという空気になってしまっていた。  しかしここで彼女が立ち上がった。 「こうなったらどうにも決まらないので、誰か一人に決めてもらうというのはどうでしょうか」  海原だった。彼女のなんでも明け透けに発言する性格が今回は功を奏した。 「その一人はくじ引きで決めます。これで全員公平です」 「そいつがおばけ屋敷派だったらどうするんだ!」  男子の一人から声が上がったが、海原はそれを圧し潰す。 「それがこのクラスの運命だったということ。それだけです」 「……くっ」  そんなやり取りの間に海原はクラス全員分の線を引いたあみだくじを作ってしまっていた。かっこ良すぎかよ。 「端の席から回すので、一人ずつ名前を書き込んでください」  もはや誰も反論することなく、むしろこれこそがこのクラスの行く末を決める唯一の方法だったのではないかというくらい、真剣に一人一人が名前を書いていった。  そして開票。 「決定権は山峰くんに与えられました。さあ決めて」  僕だった。クラス中の視線が僕に集まる。 「そうだな……」  僕は空気が読めることをこの日ほど後悔したことはない。  男子からは「お前わかってんだろうな……」みたいな空気が見えるし、女子からは「山峰くんはそこらの下品な男子たちとは違うよね? 紳士だもんね?」みたいな空気が見えてしまう。  そんな視線に挟まれながら、僕は決定を下した。 「じゃあ……『おばけ喫茶』で」  超絶弱気の折衷案だった。敵なんて作りたくない!  しかしこの提案が意外と好評で「おばけなら恥ずかしくないや」「おばけが出すものなら多少まずいものでも誤魔化せそう」とみんな納得してくれた。  そうして迎えた文化祭当日。  初めは物珍しさに顔を出してくれる方が多かったが、次第に別に楽しくなければ美味しくもない空間だということに気付き始め、客数は減少。  教室が暗いので紅茶のカップを落として割れた際にも回収が困難。  客が少なかったので収益も得られず、結果として大赤字。  と、散々な文化祭となったのであった。 「ま、これがこのクラスの運命だったということで」  みんなが落ち込みムードの中、海原だけはそう言って笑っていた。
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