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結果発表
「言えなかった言葉はローマを折り返してどこに行ったの」
「ああ、あれな」
僕は海原に言った。
「――あれは全部嘘だ」
放課後の教室。
僕と海原は卒業証書の入った紙筒をそれぞれ持ちながら結果発表をしていた。
「元も子もない」
「こんな結果になってしまい誠に申し訳ないと思ってる」
「四国行って、インド行って、ローマ行ったんじゃないの」
「全部嘘だ」
「ええー……」
がっかりしたように海原は肩を落とした。それから「じゃあ本当はどこに行ったのよ」と続けるのは自然な流れだ。勿論、答えも用意してある。
「どこにも行かなかったんだ」
僕はこの三年間の検証で得た本当の結果を彼女に伝えた。
「僕の言えなかった言葉は、この三年間僕の中でぐるぐると動き続けただけで、どこにも行かなかった。多分これからもそうだと思う」
これが、僕の導き出した結論。
言えなかった言葉は海を越えない。ましてや空も飛ばなければ、ローマに通じてもいない。
窮屈な一人の内側で何度も壁にその身を打ちつけながら、のたうち回っているだけだった。
「ちなみに」
「ちなみに?」
「こいつは結構な暴れん坊でして」
「なるほど」
「僕の中で暴れに暴れて、痛いわ苦しいわでもう結構なストレスなもんで」
「そうだよね、なんかごめんね」
「だから――もう外に吐き出して、すっきりさせたいんだ」
もう引き返せない。
今までの僕なら、こんな勝機のない戦いには挑まなかっただろう。
空気を読んで、当たっても砕けるだけと分かっているなら避けていたはずだ。
こんなの、僕のキャラじゃない。だから。
僕は宣言した。
「今から柄でもないこと言います」
柄でもなければ、キャラでもない。ましてやガラクタでもない。
つまり。
これは――ただの僕だ。
「今までずっと海原のことが好きだった」
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